かりそめお見合い事情~身代わりのはずが、艶夜に心も体も奪われました~
「口、開けられる?」


顎先をくすぐられながら甘さを含んだささやきを落とされ、また身体が熱を上げた気がした。

恥ずかしいのに。キスなんて、何年かぶりなのに。
けれども私の本能はもっともっとと彼を欲していて、少しだけ躊躇しつつも、素直に口を薄く開いてしまう。


「ふ……っぁ、」


今度はもっと深く合わさった唇の隙間から奥宮さんの舌が入り込んできて、怖気付く私の舌を撫でられた。

歯列から上顎まで、口内を丁寧にくまなくなぞっていく生あたたかい感触に、頭がぼーっとしてくる。

ぎゅう、と繋いだ手にさらに力を込めれば、不意に奥宮さんが一度顔を離して「ふふ」、と小さく笑った。


「ティラミスの味がする」


……びっくりした。こんなに、色っぽく笑う男のひとがいるんだ。

惚ける私が痛いくらいに胸をときめかせている間に、また綺麗な顔が近づいてきて唇を奪われた。

最初から深いキスは、簡単に私の理性を溶かしてどろどろにしてしまう。
絡め取られた舌を私も必死に動かして応えれば、彼の愛撫はさらに情熱的になった。


このまま──時間が、止まってしまえばいいのに。

そんなことを思ったときだった。キスに夢中になって肩からずり落ちかけていたショルダーバッグの中からバイブ音がすることに気づき、ハッとする。


「電話じゃない? 見てみればいいよ」


顔を離した奥宮さんが、私の頬を撫でながらそう言った。

今の今まで熱烈な口づけを交わしていたというのに、余裕すら感じられる涼しい表情が憎らしい。……かっこいいけど。
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