溺愛しすぎじゃないですか?~御曹司の初恋~
大輝が十二月になりお義母さんが入院して以来はじめて面会に行った。

緊張した面持ちで出かけた大輝だったが帰ってきた顔はとてもスッキリ、そして穏やかな表情をしていたので結果が良かった事が直ぐにわかった。
大輝は私にとって嫌な、悲しい思いしか浮かばない母親の事を今まで話題に出す事はなかった。


「李子が嫌じゃなければ、年末に一緒に母さんに会いに行かないか?」


夕飯時になって病院での事をポツリポツリと話し出した大輝が申し訳なさそうに訊ねてきた。
会うのは少し、いやだいぶ怖いでも・・・。


「私が行っても大丈夫?今落ち着いてるのに逆戻りとか。・・・大丈夫そうなら私も会ってみたい。本当の姿のお義母さん知らないから。」

「ありがとう。李子には嫌な相手でしかないはずなのに会ってみたいって言ってくれて。」


年末年始に一時退院するらしいから家で会う事も考えていたが、私と会って不安定になる可能性もゼロではないと医師から言われ帰宅する数日前に病院へ大輝と一緒に行き会う事になった。








「母さん、調子はどう?」


まずは大輝だけが入室する事にした。
数分会話を交わし、落ち着いていると言う事だったので私も入室する事にした。
『こんにちは。』声をかけるとお義母さんは目を見開き動きを止めてしまった。
やっぱりダメかと思い部屋を出ようかと思いかけた時、お義母さんの目から涙が一筋流れた。


「母さん?」


大輝が声をかけるが反応はなく、私をそのまま見つめ続けるだけ。
やっぱり私は退出した方がいいと思い一礼しドアの方へ向かった。
『待って。』か細い声が聞こえた。振り返るとお義母さんがもう一度『待って』と言った。

あの日、私の事を罵った同じ人だとは思えない、か細くて弱々しい声。私はおそるおそる大輝の横に戻った。


「李子さん・・・。」


『はい』とだけ返事をし、お義母さんの続く言葉を待った。


「・・・ごめんなさい。・・・謝っても許してもらえない事を、あなたにも大輝にも・・・。」


両手で顔を覆い泣き崩れてしまった。
大輝も背中をさすり寄り添い私たちはお義母さんの気持ちが落ち着くのを待った。
二十分ほどして落ち着きを取り戻したお義母さんが話始めた。


「あの時は長年積りに積もった思いで最後に残った大輝には自分の選んだ人と一緒にさせる事しか考えられなかったの。そうでないと主人からも相手にされず、子供たちも奥さんに取られて自分一人になってあの家にいるのは耐えられなかった。淋しかった。今になれば本当に身勝手な事だとわかるけど。」


お義母さんは淋しかったのか。
お義父さんが今のようにもう少しお母さんの事を気にかけたり、または娘でもいれば少しは違ったんだろう。だからと言って何でも許されるわけではないが。


「主人や大輝から何を言われても何故あそこまで必死になってたのか今では全く分からないの。でも李子さん、あなたにした事はちゃんと覚えてる・・・。あなたに敵対心むき出しで、酷い事を言ったことも突き飛ばしてケガをさせたことも。しかも知らなかったとは言え、赤ちゃんまで・・・。ごめんなさい。」



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