ウルルであなたとシャンパンを

金髪や、茶色の髪の人もいたけれど、香耶の前にいる受付の女性は、黒髪で、目も黒い。
肌の色も白いわけではなく、香耶には見慣れた黄色人種の肌色だ。

淡い期待を抱きつつ、香耶は学生時代に覚えた数少ない英語を口にしてみた。

「あー、キャンニュースピーク、ジャパニーズ?」

思い切って、少し大きめの声で言ったのがよかったのかもしれない。

香耶の英語はしっかりと届いた……が、女性は即座に短く答えた。

「No(いいえ)」
「ア、アイムジャパニーズ」

ホテルには、日本語のできる人がいるはずだ。

すがるように香耶がカウンターに身を乗り出すと、女性は嫌そうに鼻にしわを寄せ、カウンターに横並びで仕事をしている同僚達に視線を向けた。

「There is no one who can speak Japanese now(今は、日本語を話せる者はおりません)」

全体の意味を理解できなくても、言葉に含まれたノーと後半の流れは理解でき、香耶は"え"の形に口をあけたまま固まってしまう。

「えーと、それじゃ……」

どうしよう、と考えて、香耶は握りしめていた用紙に気づく。

「あ、これ!これです」


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