ウルルであなたとシャンパンを

正面の白いシャツの胸を、思いきり突きとばして。

香耶は、隣の部屋に聞こえるほどの大声をあげていた。

「だましてたのね?!」

「しーっ!声が大きいよ……騙してたなんて……そんな言い方、香耶らしくないよ?」

子供に言い聞かせるような声のトーンと、優しげな、いつもの笑顔になおさら腹が立って。

気がつけば、香耶は手近にあった枕を掴んで、ベッドに座った形の、目の前の男の顔に力いっぱい叩きつけていた。

「うそつき!」

ばふっ、と間の抜けた音がした。

遠慮なしに叩きつけた香耶の怒りは、なかなかの勢いで彼の顔面にヒットしたようだ。

小柄ではない彼の上半身がのけぞるようにしてベッドに沈むのが、スローモーションのように、やけにゆっくりした動きで見えた。

とは言っても、当たったのは、ふかふかの枕とベッド。

ケガも痛みも、まるでないのは、誰が見ても明らかだけれど。

いつも大人しい香耶の突然の行動に驚いたらしい彼は目を見開いたまま、動かなかった。

もっと固いもので殴ってやりたい気持ちを押さえ、香耶は手にした枕を大の字の状態の彼に投げつけ、窓際のテーブルに置いてあった自分の荷物を掴んで、入口に向かう。

「待って」


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