君と優しいバレンタインを
 そっと背中に回った昴の腕が解かれ、二人の間に距離ができた。顔を上げれば、確実に目が合ってしまう。

「早く、俺のなんですって言いたい。」
「っ…。」

 耳が熱い。顔が沸騰して、とてもじゃないが上げられそうにない。

「ずるい…今そんなこと言うの…。」
「もっと前から言おうと思ってたけど。」
「…パンチ重ねてくるのやめて。」
「効いてる?」
「こうかはばつぐんだ、だよ。」
 
 昴の言葉一つ一つに心が反応して、ドキドキして、苦しい。その苦しさを逃がせないから、紗弥は優しい胸に甘えてしまうことにした。体重を預けると、それに応じて腕が伸びてくる。

「一緒に住むの、嫌?」
「…嬉しい…けど…ちょっと不安もある。」
「不安?」
「一応、昴くんの前ではボロが出ないように頑張ってたつもりだけど、一緒に暮らすってなるとそうもいかないこともあるかなって。たとえば、炊飯器のボタン押し忘れちゃったりとか、スーツしわくちゃのまま寝ちゃったりとか…。」
「そんなん俺も同じだし。」

 ポンと頭に乗った手。それが少しぶっきらぼうにくしゃくしゃと撫でてくれる。

「他にも一緒に住むにあたって不安とか気になることあんなら言って。」
「一緒に住んでみて出てくるのかなぁ…今思ったのはそのくらい。」
「そんなにねーじゃん。じゃー決まり。」
「あ、え、えっと…1個お願いしてもいい?」
「うん。何?」
「…この部屋に、私が引っ越してくるってのでもいいかな?」
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