名古屋錦町のあやかし料亭~元あの世の獄卒猫の○○ごはん~

第4話 人間と妖が同期

 美作(みまさか)風吹(ふぶき)が知り合い。

 またもや、世間は広いようで狭いと実感する美兎(みう)であった。


「お久しぶりです、美作さん」
「ほんと。遅いけど、明けましておめでとう」
「あ。あけましておめでとうございます」
 

 たしかに、クリスマスイベント以来だったので時期は過ぎても新年の挨拶を交わした。風吹は、交互に美兎達を見たが、すぐに辰也(たつや)の方に向く。


「……彼女と知り合いだったのか?」
「おう。飲み友達の女の子がいるって言っただろ? それが湖沼(こぬま)さん」
「……そうだったのか」


 同じ会社の同僚なのだろうか。それにしては服装が違い過ぎる。辰也は少し着崩しているがスーツにネクタイ。対する風吹こと不動(ふどう)(ゆう)はジャンパーは膝に、服は仕立てのいいセーターとジーンズだ。

 だから、もしくは会社外の友人かもしれない。が、人肉の匂いが苦手な風吹に人間の友人と言うのも、少し不思議に思ったのだ。


「あの、失礼ですが。おふたりのご関係は?」


 恐る恐る聞くと、辰也が風吹の頭を軽く小突いた。


「会社の同期。俺が営業、こっちがエンジニア。こう見えて、こいつ。うちの会社じゃホープなんだよ?」
「……それはお前もだろうが」
「俺は営業だからいーんだ」
「……あっそ」


 やはり、同じ会社だったのか。なら、風吹の人間年齢はだいたい二十六歳くらいと言うことか。田城(たしろ)は歳上好きだから余計にはしゃぐだろうと、ほうじ茶を飲みながら思った。


「つか何? 今までこことかの事言ってないのに、なんで居んの? お前も視えるタイプだったのか??」
「…………」
「……なんでだんまりになるんだよ?」


 たしかに。会社の同僚が実は、妖だったと知ればどう思うか。それまで人間だと思っていたのが実は、だと。辰也はかまいたち兄弟と守護の契約をしていても、界隈に来る以外で特別なことをしてもらってないようだ。

 腕などの傷も、彼らに癒してもらっているので今まくったワイシャツから見えた腕は綺麗そのもの。

 かと言え、真実を受け入れられるかとなると別問題。

 しばらく、風吹は黙っていたが。猪口の酒を煽ってから前髪を軽く撫でた。


「…………俺、さ」
「おう?」
「…………妖怪。……妖なんだよ」
「……マジ?」
「……ああ」


 言った。

 言ってしまった。

 風吹の隣でしか見ていることしかできなかったが、ほうじ茶を飲んで辰也の反応を見ると。最初は目を丸くしてたが、すぐに苦笑いして風吹の頭を撫で回した。


「なんだよ! 同期が妖って驚いたけど、納得! おっ前、顔良すぎだから隠してるしさ?」
「…………止めて。てか、それだけ?」
「なんで?」
「普通……もっと気味悪いとか思うだろ?」
「俺だって、視える人間だし。かまいたちとかに守護ついてもらってっから……全然?」


 なんなら、ろくろ首とも友達だと言い張るので。多分、それは盧翔(ろしょう)だなと思った。

 とりあえず、悲しい場面にならなくて良かったとほっと出来た。


「……そう、か」


 撫でるのをやめてもらった風吹の首が、美兎の目には真っ赤になっているのが映った。


「やっほー、辰也?」


 場の空気が和んでから、部外者になりつつあった座敷童子の真穂(まほ)が辰也を呼んだ。


「お? 真穂ちゃん。あけおめ」
「あけおめー。真穂も美兎のお兄ちゃんと付き合い出したのよ?」
「え、何そのおめでた話!?」


 是非聞きたいと言いたげだったが、まだ風吹の話の途中なので。辰也は火坑(かきょう)に熱燗を頼んだ。


「実は、今日。不動さんが私の同期に助けてもらったそうで」
「ふんふん?」
「その……いわゆる恋愛相談をするのに、三田(みた)さん。サンタさんにお話されたんだそうです」
「なになに? かわい子ちゃん? 不動が惚れるってよっぽどじゃね? こいつ、会社じゃ付き纏われたらガン飛ばす奴だぜ?」
「美作!?」
「事実だろ??」


 たしかに、隠れている素顔は超絶美形に属すので女性には人気だろう。OLなんかの会社の女性は、そんな好物件を見つけたらハイエナのように付き纏うかもしれない。全部、沓木(くつき)の見解から思ったことだが。


「で、私の同期だとわかって。今日ご一緒になったんです」
「ふーん? 湖沼さんの会社の。どんな子?」
「えと。すっごいポジティブなんですけど、仕事には真面目で慕われやすい子です。顔も可愛いですよ?」
「むっちゃ避けてた方じゃん! なになに? 苦手タイプでも助けてもらった時に惚れた?」
「……悪いか」
「そうは言ってねーだろ?」


 ところで、なんの妖かと問う辰也の質問には、風吹も火車(かしゃ)であることはきちんと言ったのだった。どんな妖かと仔細を伝えても、辰也は引くことなく猪口を傾けるだけだった。
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