ハナヒノユメ
結局付いてきちゃった。

「好きなもの頼んでいいよ。」

「いえ...。」

「私も遠慮しないの。
コーヒーと、ケーキとパフェとハムサンドぐらいは頼むから。」

と言って、その数倍の量を注文したこの女性。

美人はいいけど、随分な変わり者のようだ。

今はさっきとは違って落ち着いてはきてるみたいだけど。

「それでね、ハジメさんにとって私はまだまだ魅力も取り柄もない女だったって訳なの。」

初めて会ったときとは対照的に、重い導入から始まるこの話...。

「初めから分かってたのよ。
会社内では、絶対振られるで有名だったからね。」

...嫌な知名度の上がり方...。

「でも、もしかしたらなんて...。
甘い幻想だったなぁ。
何度かデートには行ってくれたの。
わがまま言って、お家に遊びに行けたのも大した成果かなって。」

こういうとき、どんな反応したらいいんだろう。

適当に相槌でも打ってればいいのだろうか。

「あらかじめ誤解がないように言っておくとね、やっぱり私が無理やり作った関係だったのよ。悩みとか、色々きいてもらって、元彼に虐待されてたこととか解決してもらって、すっかり舞い上がってたの。」

「...。」

「だから、片思いだった。
今でもハジメさんは、まだユキさんのこと思ってるんだって。はっきりと。」

「お母さんのこと...?」

「そう。」

...それは地味に初耳だけど。

「ごめん...桜ちゃんにはやっぱ辛い話か...。」

「いえ。だいぶ幼いときですから。」

「そう?
でも、桜ちゃんも私みたいな身勝手な女は嫌だよね?」

「いえ。別に。
それよりも、父親が何を考えているのか私にはよく分からなくて。」

「ハジメさんは、桜ちゃんのこととっても大切に思ってるよ。この前の桜ちゃんの期末試験の答案もこっそり見て、塾講師にもっと真面目に教えろって直談判しに行ってたから。」

それも知らなかったけど...。

とんだお節介を...。

「ハジメさんは家族想いなの。
でも、一方で真面目でお人好しすぎることもあって、私みたいなあかの他人にもまるで家族みたいに優しくしちゃうの。
実はね、ハジメさんのこと好きな人結構多くて、こんな話もなんだけど、男であってもね新入社員とかで慣れてないとその優しさに
ころっといっちゃうらしいのよ。」

「え...?」

なんでそんなに...。

「今は受け入れられないかもしれないけどね。お父さんは凄い人だって自信持って言えるよ。」

「...。」

「私も実はまだ諦めてないの。
そのことで申し訳ないって、桜ちゃんに謝っておきたくて...。」

「...。」

「桜ちゃん?」

「あの...私、やっぱり用事を思い出したので、お先に失礼します。」

そうことわったのち、私は焦って走り出してしまった。

やっぱり、父親に似て、嫌いな私が

私らしくいられるときって...。
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