死のうと思った日、子供を拾いました。
★★
夏菜の部屋を歩き回ったり、家具を何度も触ったりしながらひたすら考えたが、結局朝日がのぼっても、てんで答えは出なかった。
愁斗は助けたい。
育てるのも嫌なわけじゃない。でも俺にはとてもできない気がする。
浮かない足取りで夏菜の部屋を出て、洗面所まで足を進めた。
洗面所では、愁斗が顔を洗っていた。
「うわ。あんた、クマひどいよ?」
蛇口を締めると、鏡に映っている俺の顔を見て愁斗は肩を落とした。
「気のせいだろ」
お前のことで悩んでて一睡もできなかったとは言わないほうがいいよな。
鏡についているフックから紐付きのタオルを取って、愁斗は顔を拭いた。
「流希寝てねぇの?」
「いや……少し睡眠が浅くて」
欠伸が出て視界がぼやけた。
「じゃあ約束はなし?」
俺の顔を見つめて、愁斗は心配そうに首を傾げた。
歯磨き粉、よっぽど苦かったんだな。
愁斗の頭を撫でて、俺は笑った。
「大丈夫。ちゃんと守るよ」
「じゃあ買い物楽しみにしてる。楽譜も買ってくれるんだろ?」
愁斗が瞳をキラキラと輝かせながら言う。素直すぎる反応が可愛くてつい笑みが溢れた。
「ああ」
「何時に行く?」
「んー愁斗、今日学校は?」
「姉ちゃんが当分学校には行かなくていいから、学校行って思ったことをもっと詳しく話してって言ってくれた」
「そうか。よかったな。それじゃあ昨日は、ちゃんと真希さんと話したのか?」
「ちゃんとって?」
丸々とした瞳で俺を見つめながら、愁斗は首を傾げた。
「真希さんは確かに電話をしなかったかもしれないし、愁斗が話をしている途中で、仕事に向かったこともあったかもしれない。でも愁斗の話を聞こうとしなかったことは一度もないだろ。それなのに怒って、思ってもいないことを言ったってちゃんと伝えたのか?」
「姉ちゃんと俺が二人で暮らしてた時のことなんか知らねぇくせに」
愁斗が不機嫌そうに口をとがらせる。俺の言葉が図星なのが気に食わないのか。
「真希さんの愁斗への態度を見ていれば、それくらいはわかる」
「……ちゃんと言った。姉ちゃんは俺をしっかり育てられてるのに、何も相談しないで鈍さがムカつくとか聞こうとしないとか言ってごめんって」
「そうか。偉いな」
俺が頭を撫でると、愁斗はすぐに頬を赤くした。
「じゃあ、朝ごはんを食べたら支度して楽器屋と薬局に行くか」
「うん!! ……新太も行く?」
「いや新太は仕事があるから、今日は俺と愁斗と真希さんの三人かな。新太がいたほうがよかった?」
新太は昨日、愁斗や真希さんが寝てる時間に、俺が駅まで送った。
「いや三人でいい。俺、新太苦手だから」
「そうなのか。なんで?」
「元気すぎるから。……新太といると、学校にいる気分になる。ああいう元気すぎるやつって、絶対に学校に一人はいるから」
確かに新太は、大学ではいつもムードメーカーだったな。
「なんで流希と新太って友達なの。全然タイプ違うのに」
「別に全然違うわけじゃない。これでも昔は、俺もだいぶ明るかったんだよ」
「え、嘘。ありえない」
「失礼だな。本当だぞ」
力を入れないで、愁斗の頭をこづいた。
夏菜の部屋を歩き回ったり、家具を何度も触ったりしながらひたすら考えたが、結局朝日がのぼっても、てんで答えは出なかった。
愁斗は助けたい。
育てるのも嫌なわけじゃない。でも俺にはとてもできない気がする。
浮かない足取りで夏菜の部屋を出て、洗面所まで足を進めた。
洗面所では、愁斗が顔を洗っていた。
「うわ。あんた、クマひどいよ?」
蛇口を締めると、鏡に映っている俺の顔を見て愁斗は肩を落とした。
「気のせいだろ」
お前のことで悩んでて一睡もできなかったとは言わないほうがいいよな。
鏡についているフックから紐付きのタオルを取って、愁斗は顔を拭いた。
「流希寝てねぇの?」
「いや……少し睡眠が浅くて」
欠伸が出て視界がぼやけた。
「じゃあ約束はなし?」
俺の顔を見つめて、愁斗は心配そうに首を傾げた。
歯磨き粉、よっぽど苦かったんだな。
愁斗の頭を撫でて、俺は笑った。
「大丈夫。ちゃんと守るよ」
「じゃあ買い物楽しみにしてる。楽譜も買ってくれるんだろ?」
愁斗が瞳をキラキラと輝かせながら言う。素直すぎる反応が可愛くてつい笑みが溢れた。
「ああ」
「何時に行く?」
「んー愁斗、今日学校は?」
「姉ちゃんが当分学校には行かなくていいから、学校行って思ったことをもっと詳しく話してって言ってくれた」
「そうか。よかったな。それじゃあ昨日は、ちゃんと真希さんと話したのか?」
「ちゃんとって?」
丸々とした瞳で俺を見つめながら、愁斗は首を傾げた。
「真希さんは確かに電話をしなかったかもしれないし、愁斗が話をしている途中で、仕事に向かったこともあったかもしれない。でも愁斗の話を聞こうとしなかったことは一度もないだろ。それなのに怒って、思ってもいないことを言ったってちゃんと伝えたのか?」
「姉ちゃんと俺が二人で暮らしてた時のことなんか知らねぇくせに」
愁斗が不機嫌そうに口をとがらせる。俺の言葉が図星なのが気に食わないのか。
「真希さんの愁斗への態度を見ていれば、それくらいはわかる」
「……ちゃんと言った。姉ちゃんは俺をしっかり育てられてるのに、何も相談しないで鈍さがムカつくとか聞こうとしないとか言ってごめんって」
「そうか。偉いな」
俺が頭を撫でると、愁斗はすぐに頬を赤くした。
「じゃあ、朝ごはんを食べたら支度して楽器屋と薬局に行くか」
「うん!! ……新太も行く?」
「いや新太は仕事があるから、今日は俺と愁斗と真希さんの三人かな。新太がいたほうがよかった?」
新太は昨日、愁斗や真希さんが寝てる時間に、俺が駅まで送った。
「いや三人でいい。俺、新太苦手だから」
「そうなのか。なんで?」
「元気すぎるから。……新太といると、学校にいる気分になる。ああいう元気すぎるやつって、絶対に学校に一人はいるから」
確かに新太は、大学ではいつもムードメーカーだったな。
「なんで流希と新太って友達なの。全然タイプ違うのに」
「別に全然違うわけじゃない。これでも昔は、俺もだいぶ明るかったんだよ」
「え、嘘。ありえない」
「失礼だな。本当だぞ」
力を入れないで、愁斗の頭をこづいた。