死のうと思った日、子供を拾いました。
「流希さん、愁斗、ご飯できたよー」
 洗面所のドアをノックして、真希さんは言った。
「ありがとう姉ちゃん!」
 愁斗はすぐにダイニングに行った。

 真希さんが俺に近づいてくる。

「流希さん、そういうところですよ」

「へ?」
 何のことだ?

「流希さんは自分がどんなに弱っていても、誰かの世話を焼こうとしてくれる。流希さんがそういう人だから、私は愁斗のことを頼んだんです。夏菜さんもきっとその優しさに惹かれて、流希さんを好きになったんだと思います」
「……それでも俺はもう誰かのそばで生きる気にはなれません」
 腕を掴まれた。あまりに強い力にぎょっとする。
「なれなくたっていいじゃあありませんか! 流希さんが死にたくなったらその度に私が止めます。生きてって叫びます。だから私と買い物に行って、愁斗と三人でご飯を食べて愁斗のそばで寝てあげてください」

「……どうしてですか」
「流希さんが必要だからです」

「誰かに助けて欲しいなら、俺じゃない近所の人や学校の先生を頼った方がいいですよ。その方がよっぽど幸せになれます」
「それが私と愁斗を罵倒するような人でも?」
「え?」
「見て。あの子達今日も学校行ってないわよ。買い物なんてする暇があったら勉強すればいいのに。本当にダメな子ね」
 口に手を当てて、声のトーンを高くして真希さんは言った。

「同じアパートに住んでいるおばさんの真似です。私や愁斗に聞こえるかどうかなんて気にもしないで、愚痴ばかり言うんです。私達のことなんて何一つ知らないくせに。そんな人に助けなんて求めたくありません」

 よりによって近所にそういう意地の悪い人がいるのか。

「知らないと悪口を言う資格がないわけじゃない。それでも、何も知らない人に良い子か決めつけられるのはいい気分じゃないです。だから私は、ずっと探してたんです。そういうことをしない人を」

 俺がそうだって言うのか?

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