冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「なんだか、意外だったわ。あなたがこんなに子供の扱いが上手いなんて」


 テラスに立ちながらリリーがそう言えば、リアムが小さく笑って自身の手のひらへと目を落とす。


「俺が子供の頃、この邸の近くに孤児院があったんだ。俺が小さい頃は、その孤児院の子供たちと遊んだりしていて……。中には、今のオリビアと同じ年くらいの小さな子もいたし、今でも身体があやし方を覚えているようだ」


 当時を思い出したのか、リアムは灰色の瞳を伏せて、瞼をおろした。

 対してリリーは、リアムの話を聞いてダスターから聞かされた話を思い出していた。

 リアムはラフバラの第三王子という立場でありながら、幼少期はラフバラの町はずれにあるこの邸で暮らしていた。

 それは彼の母が使用人という低い身分であったために王族たちから蔑まれ、不遇な扱いを受けたからだ。


「ごめんなさい、私……。誰からとは言えないけれど、実はあなたの子供の頃の話と、あなたが本当はラフバラの第三王子であることを以前に聞いたの」

「そうか……」

「あなたが子供の頃、私と同じように【幽霊】として扱われていたんだって知ったときには驚いた。この邸も……当時、お母様と暮らしていた思い入れのある場所なのだと聞いたわ」


 遠慮がちにリリーが言えば、リアムはそっと目を細めて「ああ」と小さく相槌を打った。


「別に珍しくもない話だ。二十六になった今では、遠い昔話のような気もしている」


 そう言って青い空を眩しそうに見上げるリアムは言葉のとおりに、過去を気に病んでいるふうには見えなかった。


「それに、そういう境遇にあったおかげで今の責務を担い、結果としてリリーに出会うことができた。だから俺を蔑んでいたものたちに恨みなどはないし、俺は兄である現国王陛下の国を統べる手腕を誰よりも買っているんだ」


 ゆっくりと視線を戻したリアムはリリーを見つめ、清々しい笑みを浮かべた。

 凛々しい彼の表情と言葉に見惚れたリリーは、リアムを眩しそうに見つめ返して再び静かに口を開く。


「あなたは、強い人ね。きっとそんなあなただから、ダスターを始めとした騎士団の隊員たちは、ついていこうと思えるのね」


 リアムと出会ったばかりの頃は、冷酷無比と噂される騎士団長である彼の表面だけを見ていた。

 けれどリアムを知れば知るほど、彼が周囲の人間に尊敬される理由がわかるのだ。

 思ったことをそのまま口にしたリリーに、リアムは一瞬驚いた顔をしてみせたが、すぐにそっと微笑むと、リリーの肩を引き寄せ彼女の頬にキスをした。

 
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