冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「お、俺は優しくなんかないっ!」


 不意に力いっぱい叫んだロニーが、「ふんっ!」と鼻を大きく鳴らした。

 リリーは大きな目を見開き固まって、思わず返す言葉に詰まってしまう。

 何を隠そうロニーも、六歳の頃に戦争で両親を亡くして、この孤児院へとやってきたひとりなのだ。

 リリーが初めてここを訪れたときにはまだ他の子たちとは馴染めずにいて、一国の王女であるリリーとは目を合わせようともしなかった。


「俺は大人になったら、誰にも負けない最強の騎士になるんだ! だから、俺には優しさなんて必要ない!」


 拳を強く握ったロニーが、まだ声変わりもしていない声で叫ぶ。


「それでいつか、父さんと母さんを殺した奴らを捕まえて、今度は俺がそいつらを剣で真っ二つにしてや──っ!」

「ロニー、ダメよ。それ以上は言ってはいけない」


 声高に言うロニーの口を、リリーが華奢な指先でそっと塞いだ。

 そのままリリーは揺れるロニーの瞳を真っ直ぐに見つめながら、自身の呼吸を整えたあとで丁寧に言葉を紡ぐ。


「たとえ自分が不遇な目に遭ったとしても、憎しみに心を囚われてはダメ。復讐や報復は、決して誰の心も救わない。ただ、負の連鎖を生むだけよ」


 諭すようなリリーの口調に、ロニーは一瞬息を呑んだあとで頼りなく視線を彷徨わせて俯いた。

 たった今、威勢のよいことを言ったばかりの唇は引き結ばれ、悔しさの滲む瞳には苦い葛藤が滲んでいる。


(ああ……でも、本当は私がこんなことを言える立場ではないのに)


 ロニーの心情に寄り添うリリーの胸は張り裂けそうなほど痛み、吐く息は僅かに震えた。

 
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