冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

「リリー様……。まさかとは思いますが、ここはあの騎士団長の邸なのではないでしょうか?」


 震える声でそう言ったのはソフィアだ。

 もし、ソフィアの言うとおりであれば、昼間ローガンの言った『主が戻られるまでは』という言葉の『主』が指すのは、リアムということになる。


「リリー様。お部屋までは、このローガンがご案内させていただきます」


 再度かけられた声にリリーがハッとして顔を上げると、ソフィアがリリーの前に両手を広げて立ちはだかった。


「い、行ってはいけません、リリー様! こんな夜更けに部屋に呼びつけるなど、どのようなことが目的かは容易に想像ができてしまいます……!」


 ソフィアの言うことは最もだ。初心なリリーでも、夜更けに男が女を部屋に呼ぶ理由くらいは察せられる。


「そうね、ソフィア。でも、仮にもし、本当にリアムがこの邸の主であるとするのなら、今の状況についてリアムに聞きたいことだらけだわ。それにウォーリックのことや、どうしてあの場にラフバラの聖騎士団長である彼がいたのか、自分の耳で確認したいの」


 そう言うとリリーは、精いっぱい平静を保ちながら微笑んだ。


「大丈夫。仮にも私は、ウォーリックの王女よ。聖騎士団の長とはいえ、政治的利用価値のあるだろう私に、そう簡単に手を出すことはできないはずよ」


 もちろん、確証などない。

 けれど今はそう信じて、リアムの待つ部屋へと向かうしかないのだと、リリーは自分の置かれた立場を振り返った。

 
< 67 / 169 >

この作品をシェア

pagetop