冷徹騎士団長に極秘出産が見つかったら、赤ちゃんごと溺愛されています
 

(ラフバラには現国王陛下と、第二王子であられる弟殿がいるのみだと聞いていたのに……)

 つまり、リアムもリリーと同じ【幽霊】だったというわけだ。

 その事実に何よりも驚いたリリーは、自身の胸に手を当てて息を吐いた。

 今、リリーが知っているリアムは、騎士団長として堂々と立つ彼の姿だけなのだ。

 けれど、現在の地位につくまで、リアムはどれだけ苦水を飲んできただろう。

 彼が歩んできた道程を知り、やり切れない気持ちになったリリーはギュッと下唇を噛みしめた。


「それと、どうしてリアム様が慕われているのかってことですが、リアム様は俺みたいな孤児院出身のものも差別せず、常に平等に評価し、接してくれるお方でもあるからなんだと思いますよ」

「え……?」


 【孤児院】ということばに反応したリリーは、弾かれたように顔を上げた。

 するとダスターは一瞬眉尻を下げてから、曖昧な笑みを浮かべた。


「俺、ラフバラの孤児院で育ったんですよ。小さい頃に両親を戦争で失くして……。だからよく品のない喋りかただって怒られるんですけど、リリー様のことも不快な気持ちにさせてたら申し訳ないです」


 また頬をかいたダスターは、そう言うとぺこりと小さく頭を下げた。

 今、リリーの脳裏をよぎっているのは、ウォーリックの孤児院にいたロニーを始めとする子供たちのことだ。

 兄のアイザックによれば、子供たちはリリーの悲報を聞き大層嘆いていたということだったが、彼らは今も元気に過ごせているのだろうか。


「リアム様は、自身が子供の頃から不遇な目にあってきたこともあって、もうずっと前から、自分のように辛い思いをする子供がいなくなる世の中をつくりたいと考えておられるんですよ」


『いつか……世界中の子供たちが安心して眠れる夜がくるように、俺も毎日願っている』

 そのときふと、リリーにはある男の言葉が聞こえた気がした。

 それはあの晩、リリーを抱いた隻眼の衛兵が口にした言葉だ。

 オリビアの父でもある、オリーブ色の瞳をした彼は今、どこで何をしているのかもわからない。

 
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