破 恋

一度家に戻り
動きやすい服装に着替えて
千里に送る箱を開けて
千里の部屋の鍵をとる。
箱の中から
私があげたものではない服を
物色し紙袋に詰めて
部屋を出た。

残りのものは、廃棄させてもらおう
と、歩きながら考える。

途中でタクシーを見つけて
乗り込む。

一応、来訪をつげるボタンを押すが
応答はない。
暗証番号で解除して
千里の部屋の階に上がる。

何度、ここにも足を運んだ···だろう···
いやだ、いやだ、また涙がでてくる
私は、こんなにも弱い人間だったの
だろうか····情け···ないっ
千里に依存してる?
もぅ、いもしない人に···
様子を見て、帰るときに鍵も
返そう······

玄関で、ブザーをならすが
やはり···応答···なし
二度と使うことはないと
思っていた鍵を使い中に入る

千里の部屋の中は
« シーン » と、静まりかえっている

「センリっ、センリっ」と、囁きながら
リビングを覗くと
「なに?これ?」
部屋の中は、ぐちゃぐちゃ
千里のお気に入りのソファーには
脱ぎ散らかした服の山
テーブルの上や下には
ビールや酒の
空き缶、空き瓶がゴロゴロ
足の踏み場がない

その上、ゴミ箱からは、
ゴミが溢れて
異臭もしている
キッチンは、汚れ物で溢れ
冷蔵庫は、空っぽ
日頃と言うか
私の知る千里にはあり得ない

千里は、綺麗好きだ。
散らかっていて文句を言うとかは
ないが、いつも綺麗にしている
料理は、あまりしないが
私がいつ来ても良いように
冷蔵庫も食材があり
キッチンも綺麗にしている

特にお気に入りのソファーには、
私と千里のクッションが二つ
並んでいるだけにしてあったが
そのクッションは、そこにないのか
見えないのか·······

窓だけを開けて
そのままにして
寝室に向かう

「····センリ····」と声をかけながら
ドアを開ける
カーテンは、閉められて暗い
この部屋もアルコールと交じり
異臭がする

様子を見ながら中に入る
クローゼットは、開け放たれたまま
ベッドには誰も寝ていない
居ないのかとドアに向かうと
ハァ、ハァと微かに聞こえた

ベッドに近づき回りをみると
クローゼットのドアが開いていて
見えない所に千里が倒れていた
そばに行くと
ワイシャツにスラックスのままで
ハァッ、ハァッと早い息をしている
「千里?千里?」
と、声をかけると
目を少し開き
「······アアアッ··リ····コッ······
と、手をだすから
手を握ると、熱い
もう片手でおでこに触ると
かなり熱い

でも汗をかいていない
これはおかしいと思い
救急車を呼ぶ
救急車が来るまでに
顔と首を軽く拭いて
千里の着替えを少しだけ鞄に詰める
程なくして来客のブザーがなり
解除して部屋まで来て貰う
千里は目を閉じ苦しそうだ。

救急隊員の方に色々訊かれるが
わからないと答える

千里は、救急隊員の呼掛けには
答えることはなく
血圧も低く
酸素マスクをつけられて
運びだされていく
「あなたも一緒に来て下さい。」
と、言われて
荷物を持ち玄関の鍵を閉め
救急車に同乗する。
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