君は愛しのバニーちゃん




 地面に寝転がる俺を心配そうに見下ろすその姿は、まさに地上に舞い降りた天使。


『あ、あの……。大丈夫、ですか……?』

『やめなよ、美兎っ! この人、絶対危ない人だよ! ……格好だって、ホストみたいだしっ! 変な因縁つけられるよ!?』

『で、でも……。倒れてるのに、放っておけないよ……』

『放っときなよ! 勝手に自爆してきたの、この人だしっ! 怖すぎっ! ……しかも、なんか笑ってるし! キモッ!』


 なんだか酷い言われようだったが、そんなこと俺にはどうでも良かった。ただ、目の前に広がる光景に酔いしれていたんだ——。


(なんて最高な、アングル……)


『……パン……ッ』

『ぱん……?』

『……!? 美兎の持ってる、パンじゃない!? 早く、それ渡して行こっ!』


 天使の持っていたパンを奪い取ると、俺に向かって雑に投げつけた堕天使——改め悪魔。そのまま天使の腕を取ると、足早に俺の元から去っていく。
 一人残された俺は、その場から動くこともできずに、ただジッと、先程見た残像を眺めていた。

 パンツ越しに見えた、(うるわ)しの天使を——。





「パンツが良かっただけじゃねーかよ!」

「……ちげーわっ!」

「いや……今のお前の話しからは、パンツへの熱意しか感じられなかった」

「っざけんな! 俺の純粋な気持ちを、みくびるなっ!」

「……まっ。パンツなんて、腐る程見てきただろうし? 瑛斗にしたら、どーでもいいよな、そんなの」

「……おいっ!! うさぎちゃんのパンツは別格だ!!!」

「やっぱパンツかよ……」

「ダァーッ!! ちげぇーつってんだろ!?」


 俺の純粋な気持ちを全く信じようともしない二人に、呆れて溜息が出る。


(俺は純粋に、うさぎちゃんに恋してるんだっつーの!)


「……で、たまたま運良く親同士が知り合いで、家庭教師をすることになったんだ?」

「バーカ。運良くじゃねぇよ。運命な、う・ん・め・い!」

「あー、はいはい。……で? いつ会わせてくれるの? 『うさぎちゃん』に」

「は? お前らに会わせるわけねぇーだろ!」

「はぁ!? なんでだよー! 『うさぎちゃん』のお友達、紹介してくれよ〜!」

「ふざけんなっ! いちごのパンツは、俺だけのもんだっ!」

「は……? いちご? え、高校生ってそんなパンツ履くの? なんか萎えるわぁ……」

「バカ言え! フル勃○だろっ!」

 
 神聖なるいちごのパンツの良さがわからないとは、なんと哀れな健。


(俺なんて、想像するだけで今にも昇天しそうだわっ! ……まぁ、それも美兎ちゃん限定でなんだけど)


「じゃ、俺もう行くわ」


 美兎ちゃんの顔を想像するだけで、思わず顔がニヤケてしまう。


「……あー。今日もカテキョ?」

「そっ。レッツ、いちご狩り!」

「いちご狩りって……。カテキョだろ」


 ルンタッタ・ルンタッタとスキップで走り去る俺の背に向け、呆れ顔の大和は小さく溜息を吐く。その横で、「やっぱ、パンツじゃねぇかよ」と小さく呟いた健の声は、俺の耳に届くことはなかった——。



 
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