ボーダーライン。Neo【上】
 2

 駅の構内の待合室で、あたしは大きく右手を振った。百五十そこそこの身長を縦に伸ばす気持ちで、こっちこっち、と手招きする。

 その挙動の甲斐もあり、美波はあたし目掛けてスーツケースを転がした。

「ごめん、待った?」

「ううん、そんなには」

「あの二人は?」

「それが、まだ来てないみたいで……」

 あたしの言葉を聞き、美波は腕時計の針へ、目を落とした。

 ロンドン旅行を勢いで決めた翌日。あたしは美波に協力して貰い、パスポートの申請を出した。

 ツアーコンダクターとも、癒しのマスコットキャラとも呼べる秋月くんに、電話で連絡を取り、現地での宿泊場所や飛行機の時間、国際線チケットの入手など、具体的な事を決めた。

 あたしと美波は、彼らとは別に、現地ホテルに泊まる気でいたが、金銭的な問題を考慮し、秋月くんから良心的な提案があった。

 お祖父さん達の住む家が、部屋も余っているという事で、一緒に泊まれば良いと彼は言った。

 旅行の手続きや、現地での案内役、宿泊場所の手配までして貰い、本当に至れり尽くせりで、渡りに船とはこの事だ。

「あ! いたいた、おーいっ!」

 隣りで美波が大手を振り、幾らかギョッとなる。時間にして、もう夜の八時だが、知り合いの生徒や保護者、先生方がいないだろうかとビクビクする。
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