ボーダーライン。Neo【上】
「だって、あたし。教師だから」

 特定の生徒と旅行なんて、普通許される事じゃない。

 あたしは缶に口を付け、ひと口ふた口、ビールを流した。

「まぁ、確かに。サチは真面目だし、気にするなって言う方が無理だよね」

 美波は言い、おしぼりで手を拭いた。

「でもさ。そんなの、いざ国境を越えてロンドンに行っちゃえば、誰も知らない事だよ?」

「え?」

「サチが教師で、あの二人が生徒だなんて。当人以外知らないんだから、サチも知らんぷりすれば良いんだよ」

 知らんぷりって、とあたしは口元を緩めた。中々に乱暴な考え方だ。道徳観念を無視しろ、と言われている気さえする。

 無言でまたビールを口にする。

「あのイケメン達は、どうせなら癒し的なマスコットキャラで付いて来たと思えば良いんだよ」

 ーー癒し? マスコットキャラ?

 バーテンの秋月くんを思い出し、あたしはフッと笑ってしまう。何だかそれはアイドル的な存在で、二次元だから大丈夫、と念押しされているようだ。

「初めての海外旅行、どうせだったら楽しもう?」

 ーーどうせ行くんだったら……

 あたしは手元の缶をぼんやりと見つめた。

 教師の仮面を外して、楽しみたい。

「そうだね。それも良いかもしれない」

 頑なな自分を隅に追いやり、あたしは素直に笑った。
< 102 / 269 >

この作品をシェア

pagetop