ボーダーライン。Neo【上】
「今。なんて?」

 彼女の英語を聞き取れずに訊ねると、彼は口元に手をやり、ポツリと言った。

「‘可愛い彼女だね、お似合いだわ’って」

「え……」

 ーー彼女。

 秋月くんを見て少しだけ頬が熱くなる。

「俺ら。端から見たらそう見えるんだ?」

 あたしは地面を見つめ、小さく頷いた。

「けど。秋月くんには気の毒だな」

「何が?」

「だって。あなたから見たらあたしなんておばさんなのに」

 正直、自分をオバサンなんて卑下した事は無かった。けれど、今年十七歳の彼に対して、二十五にもなるあたしは、立派なオバサンに思えた。

「は? 何言ってんの。先生、じゅーぶん若いし」

「そんな事」

 やはり、無いとは言えず、肩をすくめた。

「つか、今二十四だっけ?」

「ううん。誕生日きたから。もう五だよ」

 言いながら、秋月くんからデジカメを返される。

「そうなんだ? 誕生日いつ?」

「……五月二十日」

「二十日? じゃあ俺と三ヶ月違いか」

「え? 秋月くんいつ??」

「八月二十日」

 あたしは目を丸くした。

「じゃあ、あさってじゃない? おめでとうっ」

「いやいや、まだだから」

 あたし達は歩きながら美術館の入り口へと向かった。

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