ボーダーライン。Neo【上】

 ーーうそ。

「あっ、秋月くん」

 後ろ向きに見上げると、彼は険しい顔で、男二人を睨みつけていた。

 一瞬、都合のいい妄想かと思ったが、彼はあたしを守ろうと肩を抱いていた。その感触で現実だと分かる。

「なんだ、てめぇ?!」

 男の一人が、秋月くんを見て凄んだ。

「……先生」

 彼は少しだけ屈んだ体勢で、何か言おうとするが。凄んだ男に、突如として、右頬を殴りつけられた。

「きゃあっ!?」

 ふらっと体勢を崩すが、転ぶのだけはどうにか持ち堪え、秋月くんは体を反転させた。

「ッてーな、このッ!!」

 怒鳴りながら、見事な回し蹴りがヒットする。

 当たった場所が悪かったのだろう。殴った相手が後方に倒れた。

「やっべッ!」

 もう一人の男が倒れる片割れを、抱き起こしている。

「先生、逃げよっ!?」

 頷く間もなく、秋月くんに手を引かれ、駆け出していた。

 闇雲に走り回り、何とか男達を撒いた。

 逃げ込んだ狭い路地裏で、あたしはゼイゼイと息をし、心臓を押さえた。バクバクと音を立て、脈を打っている。

「あ、ありがと……っ」

「いや……」

 言いながら、秋月くんがグイッと口元を拭う。殴られた拍子に端が切れたのか、血が滲んでいた。
< 208 / 269 >

この作品をシェア

pagetop