ボーダーライン。Neo【上】

「だ、大丈夫?」

 どうしよう、どうしよう、と。オロオロし、涙がこみ上げた。ポケットからハンカチを取り出し、拭こうとすると、彼は首を振り、やんわりと断った。

「大丈夫。こんなのかすり傷だから」

 へへっと彼が笑い、幾らか胸が熱くなる。

「先生、何でこんなとこにいんの?」

 って言うか、とか。そう言えば、とか。何の前置きもなく、秋月くんが訊ねた。

 秋月くんに会いたくて、走って来た。まさかそんな本心は言えず、あたしはその場を取り繕った。

「あ。秋月くんにご飯、作ってあげようと思って」

 その返答に秋月くんは、目をパチクリとし、唖然としていた。秋月くんの目に、何で今日? と疑問が見えた。

「何で、俺がここにいるって」

 ああ、そうか。それについては言い訳が立たない。そう思いながら、あたしはためらいがちに口を開いた。

「秋月くんが、バイトしてるの。知ってたから」

「……え。マジ?」

「……うん」

 彼は顔を赤らめて、口元を押さえた。

 ポツリと何かを呟き、どういうわけか、急に笑い出した。

「ハハっ、カッコわりって、……っいてッ!」

 口元を緩めて笑ったのが、痛かったのだろう。彼は両手で頭を抱え、後ろの壁にもたれかかった。
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