ボーダーライン。Neo【上】

 ◇ ♀


「お疲れ様でした」

 軽く会釈を残し、あたしは職場を後にした。

 夕食の材料を買い足すため、最寄り駅のスーパーに寄ってから帰ろう、と考えていた。

 どこを眺めても人ばかりの交差点。信号待ちで足を止め、腕時計の針に目を落とした。

「--ねぇ。今月号のミュージカ見た? FAVORITEの特集」

 女子高生のはしゃぎ声が後方で響いた。まただ、と思ってしまう。

「そうそう。新曲のPVがヤバくてさ~。Hinokiのあの顔は反則だよねー」

 隣りに並ぶOLと思しき女性は、電話片手にニヤついている。

「あと二週間ちょっとだよね? クリスマスライブ! 超~楽しみ~っ!」

 前方でかしましい声を上げる三人組の女子大生。

 本当に凄いな、有名になったんだな、と。もはや溜め息しか出てこない。

 今や、どこをどう歩いても彼ら、FAVORITEの話題に遭遇する。否が応でも耳にするHinokiの名前。

 近年、爆発的に売れている四人組のロックバンドで、そのボーカリストの一人だ。
< 7 / 269 >

この作品をシェア

pagetop