キミの世界で一番嫌いな人。




「…あの子でしょう理久。昔、病院で見た元気で可愛らしい女の子」



ばあちゃん、その子は俺の心臓を与えたから走れるようになったんだって。

それで今度は、俺のぶんまで走るって言ってくれたんだ。


本当はそれだけで十分だった。



「世の中にはね、失ってから気づくもので満ち溢れているの。
それはとても哀しいことよ。でもね、それでも人は前に進まなくちゃいけない」



皺ばかり。

けれど、たくさんのものを乗り越えてきた大きくてあたたかい掌。



「でも不思議なのよ。こうやって誰かと手を取り合うとね、そんなものが乗り越えれてしまうの。人はこうして前に進むのよ」



そのぬくもりは俺の手を掴んで走ってくれるような、あいつのものに似ていた。


俺はあの少女にとってのそんなものになりたかったんだ。

ランドセルを背負った俺は、あの子の手を引いて、大きな空の下を一緒に走ってやりたかった。



「…大丈夫よ、理久。誰にだって優しさは必ずあるんだから。
それを見つけたとき、あなたは必ず幸せになれるわ」



お前が取る手は廣瀬でいい。
廣瀬なら、一緒に走ってやれる。

俺のぶんまで、走ってくれる。


だからもう、お前も俺を忘れろ。



「ゴホっ…!はっ、はぁ…っ、」


「理久…!?」


「…だいじょうぶ…、」



俺にはもう、時間がないから。



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