九羊の一毛


開けた視界に広がる、暖かな空間。友人知人、沢山の顔ぶれが出迎えてくれる。

父とゆっくり歩幅を合わせ、一歩一歩踏みしめていく。緊張していたつもりだったけれど、ぐちゃぐちゃに泣いている隣を見ていたらほぐれてしまった。

真っ直ぐ進んだ先、私を待つ人。この世で一番、愛してやまない人。
私と同様、純白のスーツを纏った彼は、父から私の右腕を引き継いで正面に向き直った。

堅苦しい式よりも、来てくれた人に感謝や真心が伝わる式にしよう。
彼と二人でそう決めて、教会ではなく、開放感のある会場を選んだ。


「本日、私たちは皆様の前で結婚の誓いを致します。今日という日を迎えられたのも、私達二人を支えて下さった皆様のおかげです――」


誓いの言葉。隣で流暢に読み上げる彼の声を聞きながら、会場に視線を投げる。
とんとん、と軽く腕をたたかれて、彼のセリフがとうに終わっていたことに気が付いた。


「……これからは二人で力を合わせて苦難を乗り越え、喜びを分かち合い、笑顔溢れる家庭を築いていくことを誓います。未熟な二人ではありますが、」


彼と顔を見合わせ、それから息を揃える。


「これからも温かく見守ってください」

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