九羊の一毛


男側の話なんてあてにならない。
先程から不安げに俺らの会話を見守っていた彼女に、視線を向ける。


「ほんと? 何もされてない?」


じっと見つめて答えを待つ。
彼女は肩を竦めると、声は出さずに何度も頷いた。その反応に、ようやく胸を撫で下ろす。


「自分だって女の子とイチャイチャしてたのに、よく言う……」


不服そうに零した岬に、俺は淡々と述べた。


「岬は手が早いから」

「まーじで玄には言われたくない、それ」


確かにそうかもしれないが、そういうことじゃない。
岬は全然分かっていない。媚びてくる女子とも、断固として拒否してくる女子とも、全く違う次元にこの子はいる。

そういう不純な動機で簡単に触れていいような女の子じゃない。


「だって、さっきも手ぇ繋いでたでしょ」

「え? いやまあ、繋いだ、けど……」

「ほら」

「手だよ!? 手だけで!?」


だけじゃねえよ。しっかり変なこと考えてたくせに。

彼女を見る。太陽のように眩しくて、目がくらんだ。


「……羊ちゃんは、別」


それが分からない男といる必要なんて、ないよ。
彼女のそばへ近寄って、衝動的に手を掴んだ。


「か、狼谷くん?」

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