九羊の一毛


うん、彼の言うこともあながち間違っていない。
そんなことを考えながら、緩く彼の胸を押す。僅かに空いた距離、見つめ合ったまま私は笑いかけた。


「でも、今日は女の子が頑張る日だから、もっと言ってもいい?」

「え?」

「玄くん、好き。大好き」


勢い任せに、ちゅ、と軽くキスを落とす。

途端に泣きそうな顔になった玄くんが、「だめ」と眉尻を下げた。


「そんな可愛いことしないで……俺、やばい、」

「好きだよ」

「羊ちゃんっ……!」


抗議じみた声色で私を呼ぶ彼に、尚も「好き」と言い募る。
みるみるうちに耳まで朱色に染めて、玄くんは熱っぽく瞳を揺らした。


「もー……これは俺、悪くないよね? 羊ちゃんのせいだもんね?」

「え?」


彼の手が、そっと私の太腿を撫でる。顔が近付いてきたかと思えば、切羽詰まった吐息が耳朶を打った。


「チョコはいらない、羊ちゃんが欲しい……」

「玄く、……ひぁっ」

「ちょうだい……?」


つ、と耳の形を確かめるように、彼の舌が這う。腰を引き寄せられ、逃げ場がなくなった。


「ま、待って……こういうの、卒業してからって……!」

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