男装の姫君は王子を惑わす~麗しきアデールの双子

※成婚の夜(132の後)

 何度彼とキスをしたのだろう。
 キスを重ねる度に、甘く長くなる。
 そして一度キスをすれば、彼に触れたくなり、触れてもらいたくなる。

 いくつも留め具がある盛装を脱ごうとして、ジルコンは手間取った。
 それでもジルコンはキスするのをやめようとしない。
 舌を伸ばして繋ぎとめた。
 ロゼリアも留め具を手で探り外すのを手伝った。
 上半身裸になったジルコンは、夜着の上からロゼリアの身体を探る。
 長いキスを終えると、ロゼリアの肩に顔をうずめた。

「……ああ、ロズ。本当に、この場であなたを奪ってしまいそうだ」
 ロゼリアはキスをしてからふわふわと浮き上がるような心地がする。

「……これから、あの時の続きなの?」
「あの時?」
「雨乞い祈願の朝にあなたはキスで爆睡してしまった」
「……ここから先はしていないのか」
「していないわ」
 小さく悪態をジルコンはつく。
 それはジルコン自身に対するものであったが、ロゼリアは体を震わせた。

「色気がないとララがいう。わたしはずっと男だったから」
「はあ?あなたはアンであった時も、俺を惑わせていただろ」

 ジルコンは体を起こした。
 柳眉をわずかに寄せ、真剣な顔でロゼリアの手を己の雄に導いた。
 ズボンの上からでもくっきりと固く、猛る存在をロゼリアに伝えていた。
 アンジュと入れ替わるときに裸で向かい合った時の、アンジュのそれとは全く違う。ロゼリアはたじろいだ。
 ジルコンはロゼリアの夜着の腰ひもを解き、肩から滑らせ落とす。

 不意に、夜のしじまの静けさの深さと重さをロゼリアは感じた。
 次に進む不安と期待に胸を高鳴らせるのは、ロゼリアだけではない。
 わずかな灯りの中に、二人は向かい合っていた。
 先に口を開いたのはジルコン。
 欲望にけぶるその目は、葛藤していた。

「ロゼリア、今すぐ結婚するだけでは足りないんだ。誓ってくれなければいけない」
「この世界に満ち満ちる精霊に誓い……」
 ジルコンはさえぎった。
「俺の言う通り、繰り返して欲しい」
「わかったわ」
「蒼天、我が上に落ち来たらぬ限り、」
「蒼天、我が上に落ち来たらぬ限り……?」
「緑なす大地、引き裂けて我を飲み込まぬ限り、」
「緑なす大地、引き裂けて我を飲み込まぬ限り……?」
「大海原、干上がり砂漠とならぬ限り、」

 ジルコンはいたって真剣である。
 ロゼリアは耐えきれず、とうとう噴き出した。

「ジルコン!これは結婚の誓いよりも、もっと強い誓約だわ!天が落ちることも、大地が引き裂けることも、海が干上がることも、ありえないじゃない!」
 ジルコンは巌として揺るがない。
「ロゼリア、お願いだ。復唱してくれ。そうじゃないと俺は、あなたを失ってしまうのではないかという恐怖を生涯にわたって抱きつづけるような気がする。なぜなら、あなたの背にはどこまでも自由な羽が生えているから。僕と結婚しても飛んでいくことができる。気まぐれにも飛び立とうとする最後の瞬間を、俺は誓約で縛り付けたいんだ」

「羽!?わかったわ。大海原……」
 ロゼリアはジルコンが心配性だということを知った。
「我らの結婚の誓い、破らるることなし!」
 ジルコンは満足げにうなずいた。
 そしてさらに口を開く。
「病める時も、健やかなるときも……」
「もう、いいから続きを!」

 この調子だと、一晩中、上半身裸で向かいあいながら誓いの言葉を復唱させられそうである。
 もう、待っていられなかった。
 ジルコンの口に、首に、胸に、キスをした。
 ジルコンがひとつひとつのキスにたじろぎ震えるさまに、ロゼリアは夢中になった。
 その肌は熱く、弾力があり、しなやかだった。
 次第にその身体は汗ばんでいき、男の匂いがした。
 そして、ディーンほどではないが、ロゼリアの知らない刀傷がいくつも走っていた。
 彼のことを知らないことを知る。

「ジルコン、その傷は……」
 ロゼリアはベッドに押し倒された。
「今度は俺の番」

 ロゼリアは跨がれ、ジルコンの脚と腕と逞しい身体の檻に閉じ込められる。
 ジルコンのキスは痛みを伴った。首に、胸に、赤いキスの跡がつけられていく。
 ジルコンの手が膝下を掴み開き、その間に体を滑らせる。
 キスは、へその下へと降りていく。熱い息が、腿の内側にかかり、知らず身体が震えた。
 ロゼリアは焦った。頭を引き上げて引きとどめようとする。

「待って。そこは、キスをするところとは違うような気がする」

「違っていてもかまわない。夫婦の閨の秘密は夫婦だけの秘密だから、誰もわからない。ララにも言うことはない。俺に、全てを任せて欲しい。あなたが初夜で俺を嫌にならないように、抑制するから」
 ロゼリアを見るジルコンの眼はどこまでも黒くけぶる。
 脚を引き抜こうにも、腕と身体はびくとも動じない。

 やがてくる痛みにロゼリアは呻いた。
 ジルコンはロゼリアの痛みを優しくなだめ、ほんの少し退却する。
 与えられたわずかばかりの猶予にロゼリアが息をつげば、さらに深く突き入った。

 ジルコンが抑制できたのは初めのうちだけ。
 ロゼリアの涙と喘ぎは全てジルコンのもの。
 誓約の誓いに、血の誓いが加わる。

ジルコンはロゼリアさえこの腕に抱けるのならば、王位さえもいらないと知ってしまったのである。

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