御曹司は箱入り娘を初夜に暴く~お見合いしたら、溺愛が始まりました~
「え? 」

中身がクッキーだとすぐに分かるクリアな包装のため、恥ずかしいからあえて言及せず、「どうぞ」とだけつぶやいて手渡した。もう、なるようになれっ。

「手作り?」

ギクッと肩が跳ねる。

「は、はい。すみません」

ほんの一瞬、姉の手作りですという嘘が浮かんだが、それでぬか喜びをさせるのはあまりに非道だとすぐにやめた。
私は手紙の件ですでに大きな嘘をついているし、これ以上彼を裏切りたくない。

「私が作ったものですが、よければ、もらってください」

「いや、すごいうれしい……」

「美砂じゃなくてすみません。一緒に作ろうって誘ったんですけど、忙しかったみたいで」

透さんはまた表情が固まった。ガッカリさせたかな。私じゃダメだよね。

肩を落としていると、透さんはクッキーを膝に置き、助手席にぐっと体を寄せてくる。

「透さん?」

「沙穂ちゃん。俺はーー」

彼がなにか言いかけたところで、私たちは背後から照らされた。後ろからワゴン車が来ており、脇を通れそうにない。急かすようにギラギラとしたヘッドライトがこっちを睨んでいる。

「ごめん、動かす」

サッとハンドルに手を戻してアクセルを踏み、乙羽邸をぐるりと回って正面玄関へ。その隙にワゴン車は過ぎ去っていった。
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