ノイシュタット・エスケープ
「その感想くれてたひとの目が見えないってことを知ったのは、卒業式の日だった」
実は目が見えません
学校へは、ほとんど保健室にしか行けていませんでした
感覚できみをさがしていました
言葉は見つけられませんでしたが
なぜか、僕には伝わっていたんです
「その言葉を誰に紡がせていたのかは知らない
細い糸みたいな光で世界を認識できて
どうも自分でなんとか時間をかけて感想を書いてたっぽくてさ」
卒業式の日に、その男の子の顔を見た。
私が真横にいたけど、私が書いた言葉のメモをね、全部宝物にするって、抱きしめて通り過ぎてった。名前も知らない。相手は、あたしの顔も知らないんだろうね。でもその最後の感想を受け取って、あたしはこれを初恋にしたし、この道を選ぶって決めたんだ。
“僕は僕を諦めかけていましたが
あなたのおかげで生きる気力がわきました”
「失明寸前の光に、あたしはなれたかな」
「なれたんじゃない、その口ぶりからして」
「五感の一つを失うことをあたしは知らないけど、失礼かもしれない不謹慎かもだけど、あたしは素敵だと思うの。失った分だけ、見えてくる世界、研ぎ澄ませた他の力が世界をたくさん感じとるからさ」