ノイシュタット・エスケープ
「大切にしたいものも、失くしたくないものも、大人になる程増えてって、そのたびちょこっと逃げ出したくなるの。これってふつう?」
「普通普通」
「みんな結構逃げ出したいんだね。でも規律のルールから外れたがらないのは、なんで?」
「守りたいものがあったり、規律に則ることが正解って信じてやまないから。外れることを、なんとなく怖がってるんじゃない」
「そんな大人、嫌っす」
「うん」
大切なものが増えてってどんどん、失くしたくないものもたくさんたくさん増えて来た。年を重ねるにつれて、こんなことなら5歳くらいで事故にあって、そのまま昏睡状態になって二十歳越えてから人生やり直したかったな。
大人になっても無垢だよ。大人になることを不純とは言わないけど、へんてこな重圧にいつもどこかで押し潰されそうになっててさ。ちょっとつらくてさ。つらくてさ。
「あたしの言葉を好き、って言ってくれたひともでも唯一無二じゃないじゃん。ひとたびちょっとよそ見したら他の誰かの言葉を好き好きっていうの、これよくばり? あたしの言葉はありきたりで、実は全然特別でもないのかも」
「同じ星に生まれたものの宿命なんじゃない」
「割り切れないんだけど」
「いいか、人と比べるんじゃなくて、自分と比べるんだよ」
自分と闘うとか、誰かと比べた時点で負けとか、それも正解の常套句じゃないか。
それなら別にどうなりたいとかないや。初恋みたいにさ、届いた誰かに届けばいい。それが光になればいい。その言葉で、私は私の糧にする。
光は走りながら散っていくね。
真冬に点火した花火を走りながら散らすの。そんな言葉だな。言葉に出来ない時は景色で伝える。ねえわかって。わかって欲しいって、くたびれたわがままを持て余してさ。