夜空に見るは灰色の瞳
5 予期せぬ相席
「叶井さん、この間の晴れやかさが嘘みたいに死んだ目をしてますね」


給湯室で使い終わったコップを洗っていたところに、三永ちゃんがひょっこりと顔を覗かせてそんなことを言う。


「原因はずばり主任ですか?今日もまた派手に怒鳴り散らしてましたもんね」

「……聞こえてた?」

「もうバッチリです」


深いため息を零して手を止めると、すかさず横に並んだ三永ちゃんが、洗う作業を代わってくれる。


「あっ、ごめん」

「いいですよー、全然。それにしても主任は、よくもまあホチキス程度のことであんなに怒れますよね。留めるのにどれだけ時間かけてるんだーって言ってましたけど、むしろ叶井さん早い方だと思うんですよね。ひょっとして主任、カルシウム足りてないんですかね?」

「……どうだろうね。先輩に聞いた話だと、今日は朝から虫の居所が悪かったみたい。先輩も、早く着いたから仕事前に一服と思って喫煙ルームに行ったら、通りがかった主任に凄い顔で睨まれたって言ってたし」

「また誰かに先を越されたんですかね。そんなに祝福したくないんだったら、もういっそ結婚の報告をされた時正直に、ふざけるなー!っていつもの調子で怒鳴ればいいのに」


それは流石にいかがなものだろうか。仮にもいい年をした大人なわけだし。
まあでも、そこで我慢した分仕事中に怒りを発散しているのだとしたら、こちらとしては堪ったものではないけれど。
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