もう二度ともう一度
二人目の来訪者

「転校生」

 夏休みが開けた。今の早川にとっては大して辛くもないが、かつては意気消沈してしまう何とも寂しい時だった。

 始業式が終わり、翌日の朝。担任の言葉に教室がどよめいた。

『て、転校生だと?』

 しかし、内心もっとも驚いているのは他ならぬ早川だった。

「高見真知子です、よろしくお願いします」

 そう名乗った少女は、背が高く髪は艷やかに真っ直ぐ横顔を流れて、肩で柔らかそうに遊んでいた。
 真新しい制服には発育の良さがはちきれそうに包まれて、男子達の中には声を出してしまっている者もいた。


『バカな!?こんな女、俺は知らんぞ!』
 
 そう思って記憶を探るが、高見真知子と言う女生徒は早川の記憶にはない。あのネチネチ細かくなんでも覚えている早川の、だ。
 後ろの席を用意され、早川の横を歩き抜けて行く。その時チラリと眼が合った。

 彼女は優雅に、彼は疑う様に鋭くそれは交差した。


 チャイムと共に、迎えた生徒達から質問攻められても、高見真知子は目を細めて笑い、見た目に違わず耳心地の良い声で丁寧に答えていた。


『ヤツは一体何者だ・・?』

 たった一人、早川だけが彼女を歓迎してはいなかった。




「久ぶりだな、早川雅由季」

 時計は正午を半ば過ぎている。早川と二人になった所でそう言うと、転校生は不敵に笑みを浮かべた。声も低く聞こえる。
 教室で周囲に他の誰かがいる時と、雰囲気がガラリと変わった。この言葉で全て悟った、やはり間違いないこの女は早川と同じ存在だ。

「なんの話だ?俺は君を知らんが、な・・!」

 この昼休み、次の授業の移動ついでに早めに音楽室に逃げ込んだ早川は、それを追って来た高見真知子と2人だけになってしまった。

 黙ったまま、ピアノの前に座り軽く弾き始める高見。その姿を睨む早川。
 二人の間には異様な空気が漂っていた。

「俺に、なにか用か?お前はなにが目的でここに来たんだ!」

 早川は奏でられる旋律の中で、高見はそれを奏でる鍵盤に眼を落としながら会話は続いた。

「そう凄むな。昔はあれほど私に優しくしてくれたじゃないか・・」

 高見真知子は悪戯に笑う。それは凄まじく不気味に見えた、凍りつく様な怨念が見て取れるからだ。

「それに、聴衆が怯えてしまうだろう?」

 言われてやっと気付いたが、数人ドアの向こうにいる。そこで詰問を止め、早川は自分の椅子に座り込んだ。

「すごーい!高見さん、ピアノ弾けるんだ〜!」

 誰となく、入って来た女生徒達が騒ぐ。その中にはあの野々原あずさもいる。

「ウフフ、ええ。少しならね・・」

 そう優しく笑っている彼女の声は、早川には不気味な物の怪の声に聴こえてならなかった。
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