お仕えしてもいいですか?

「あの……」

 靴を磨くことに集中していた桜輔は、声を掛けられるまで木綿子が近寄っていることに全く気が付かなかった。

「どうかされましたか、お嬢様」

 桜輔はパンプスを元通りに戻すと、ただちに木綿子に向き直った。

「物音が聞こえたので……」

「申し訳ありません。おやすみになっているお嬢様の邪魔をするつもりはなかったのですが……」
 
 お嬢様の睡眠を妨害するなど、執事にあるまじき失態だ。桜輔は木綿子に気づかれぬようひとり唇を噛んだ。

「何をしてたんですか?」

「お嬢様の靴を磨いておりました」

「凄い……ピカピカ……」

 木綿子は感心したように玄関に置かれたパンプスに目をやった。

 パンプスは買ったばかりと見紛うほどの光沢を放っていた。

 桜輔は老人が教えてくれたこと以外にも、木綿子の執事として必要なことを独学で学んでいた。靴磨きもそのひとつである。

 生来、真面目な桜輔は木綿子という主人が出来てからも執事としての研鑽を忘れない。
< 22 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop