お仕えしてもいいですか?
あれは五度目の食事に連れて行ってもらった時のことだった。
五度目ともなると多少緊張感も薄れてきて、木綿子にも相手を観察する余裕が出てくる。
……その日の犬飼は明らかに様子がおかしかった。
予約の時間を間違えたかと思えば、ナイフとフォークを逆さに持ち、グラスをテーブルに倒したりと、犬飼らしくない行動が目立った。
木綿子と目が合っても表情は暗くぎこちない。ふとした拍子に遠くを見ていることもしばしばだった。
口下手な木綿子に変わっていつも会話をリードしてくれた犬飼は、この日はずっとため息をついていて、テーブルの上に並べられた料理には一向に手を付けようとしなかった。
そんな犬飼の様子が心配になり、木綿子は悩んだ末に声を掛けた。
「あの、犬飼さん。なにかお悩みですか?」
そう尋ねられて初めて自分が浮かない表情をしていたことに気が付いたのか、犬飼は木綿子にすぐに柔らかな笑みを向けた。
「いいえ。大した事ではないので。気にしないでください」
大した事ではないからと理由を話さずに場を流そうとする犬飼に、木綿子は断固として食い下がった。
「私で良ければ話してください」
「いや、しかし……」
「私も犬飼さんのお力になりたいのです」
内気な木綿子にしてはかなり勇気を振り絞った発言である。
木綿子は直感していた。
……犬飼は何か隠している。