世界と世界の境界線上で
翌日。

俺は由羅に言われた通りに、8時に公園に来た。

「…遅いよ。」
「まだ10分前なんですけど?!」

先に来ていたらしい由羅は、おはようの一言もなくそう言ってきた。

「本当に可愛げの無い奴だな。おはよう、和也君。待った?の一言くらい言えねーのかよ。」
「誰が和也みたいな変態に向かって誰がそんなこと言うのか分からないんだけどね。」
「わ、わかんねえだろ!いるかもしれねえじゃん!」
「それに今時の女子はそんなかわいくないよ。まぁ、男子の妄想っていうやつだね。」
「…はぁ。本当にお前はかわいくねー。」
「ごめんね、かわいくなくて。」

すると由羅は立ち上がって、歩きだした。

「あっおい、どこ行くんだ?」
「ついてくればわかるよ。」

公園を出て、俺は由羅に無言でついていく。
隣に行くことはなく、ずっと後ろでついていく。
もちろん由羅も無言で、2人で来た意味あるのかわからなくなる。

やがて由羅はとあるショッピングモールの前で立ち止まった。

「ここだよ。」
「まて、ここに入る気か?」
「もちろんそうだけど?」

俺は心底嫌な顔をした。
なんたって、今日は土曜日。
ショッピングモールの休日と言えば、イチャラブカップル達が集まる地獄の日だろう。

「何、そんな顔して。」
「…俺、帰ってもいいか。」
「別にいいけど…。その代わり……」

由羅は笑顔で言った。

「明日、楽しみにしていることね。」
「うっ…!」
「さ、行くよ。」
「はぁ…。」

コイツといると、ため息しか出ないんだか。
俺は仕方なく、由羅のあとを追って店内に入った。



「…何してるのよ。早く来て。遅れちゃうから。」
「なんでそんなに急いでるんだよ…。」
「和也って馬鹿なの?今言ったよ。遅れちゃうの。」
「馬鹿ってお前なぁ…。」

しかし、待ち遠しいのか笑顔でいる幼なじみを見ると何も言えなくなる。
すると、アナウンス前のマイクの切れるブツッという音が聞こえた。
何かのアナウンスが始まるらしい。

「皆様、本日は当店にご来場いただき、誠にありがとうございます。」
「あぁっ!もう始まるの?!ほら、走って!」
「あっおい!」

そしてその女性のアナウンスに、由羅が走り出していく。
何事かと思い、由羅のあとを追いかけながらアナウンスに耳を傾ける。

「只今より一階、デラートマートにて、30%引きのタイムセールを行います。」
「…は?」

由羅の目的地は、アナウンスにあった服屋、デラートマート。
そこにはここぞとばかりに争う女性達が…。

「さあ!頑張るよ!」
「……帰りたい…。」

和也は、女性の群れに突進したーー。



「…もうやだ…。」

俺は公園にあったベンチに座っていた。
あのあと、女性達の中に紛れた俺は、見事にボロボロになりながら、服を何着か捕まえたわけだったのだが…。

「…和也、一つ言いたいんだけどね。」
「なんだよ。」
「…和也ってセンスなさすぎない?」

そう言われて、改めて自分がとった服を見る。
謎すぎるキャラクターの絵が描かれた服。
無駄に派手すぎるビビッドカラーの服。
そしていつの時代の服かとツッコミたくなる服。
確かに、と思ったが仕方ないことだと思う。

「あのな、あの中で服選べと言われても無理に決まってるだろ?」
「そう?あたしはちゃっかり選んでたよ。」
「女は怖い…。」

あの戦争としか言えない争いの中でも勝てる気(服を選ぶ気)でいるとか…。

「うーん、いらないし、和也が選んだ服返品してくるね。」
「ひでぇな…。返品できんの?」
「わかんないけど行ってくるよ。」
「えぇ…。」
「ここで待ってて。すぐ戻ってくるから。」
「ほーい。」

内心、帰ってやろうか、と思いながらも返事をした。
暇だったので俺は空を見上げ、通り過ぎていく雲を眺める。
すると、ふと俺の視界に何かが映った。
『ソレ』は、はるか上空の青い空の上から、まっすぐとこちらに向かってきているのだ。

「…おいおいマジかよ…。休みのときくらい休ませろよな。」

何が来たのか。
それは俺にはわかっていた。
あれは、この地球の人々を襲う、魔力をもった存在。
俺はあいつらを『魔族』と呼んでいた。
そう、それがわかる俺は普通ではない。
魔族に対応できる、異能力をもった人間だった。
俺の目的はただ一つ。
魔族を葬ることだ。

俺は急いで降ってくる魔族の着地点を予測し、走り出す。
俺は異能力のひとつに異常な視力をもっている。
だから着地点はある程度予測できるのだ。
しかし、その魔族の着地点を見てゾッとした。

「さっきのショッピングモールかよっ!」

早くしなければ、由羅が危ない。
スマホを取り出し、急いで由羅にかける。

「早く…!早くっ…!」

いつまでも、呼び出し音が鳴るばかり。
そして。
ドン!と爆発音に似た大きな音が辺りに響き渡る。

「…クソォッ!」

ショッピングモールに着いて、俺は絶句して立ち止まった。

「…ウソ…だろ…。」

ショッピングモールは跡形もなく、燃えていた。

「クッ!どこだ…!どこにいる!」

由羅を探すも、人だかりが出来上がっていて見つからない。
焦りだけが募り、人を押しながら進んでいく。
由羅、由羅、と名前を叫ぶが、返事はない。

そのとき、人だかりの一部が爆発したように吹き飛ばされた。
同時に悲鳴があがり、俺の方へと人々が押し寄せてくる。
やがて、誰も辺りにはいなくなった。
俺の目の前には、『魔族』が立っている。
赤い炎で覆われた身体をもつ、人型の魔族だ。

「ギュウィイィィッ…!」

そんな謎の声をあげた炎の魔族は、天に向かって再度鳴く。

「ギュウィイィィッ!」

仲間を呼ぶつもりなのだろう。
俺は弱い。
俺には仲間もいなく、そこまで経験を積んでいるわけでもない。
敵が3に増えたら、もう終わりになる。

(そうはさせない!)

俺は手を合わせ、片方を逆に回してから放した。
すると手のところに魔法陣が現れ、間から黒く輝く漆黒の剣が姿を見せる。
これが俺の対魔族用武器、ダークセイバー。

炎の魔族はやがて味方を呼ぶことを諦め、俺の方へ向く。
そして口のあたりに炎の弾をチャージ音と共に溜め始めた。

「うおぉぉぉっ!」

俺は走り、敵の後ろに回り込む。
そして高く跳び、上から剣を振り下ろした。
しかしその直前、炎の魔族の『首が回り』、炎弾が目の前に現れる。

「クッ…!」

炎弾が発射され、ギリギリでかわした俺は少し魔族から離れた地へ着地した。
魔族は炎弾の第二回目を用意しようと、再びチャージ音を鳴らす。

「そこがお前の隙なんだよっ!『ナイト』!」

俺の能力は、闇と影。
俺は闇の異能力で辺りを真っ黒に染めた。
しかし、まだだ。

「『シャドー』!」

そして影の能力を使い、自分を闇と同じように黒くする。
これで目を凝らさない限り見えなくなるだろう。
魔族の用意した炎弾だけが、暗い辺りをうっすら照らす。

「そこだなっ!」

敵の後ろから、剣を振り下ろす。
ザシュッ!と音がして、魔族の身体が真っ二つになる。
けれど、魔族を倒すには『コア』を潰さなければならない。
真っ二つになった身体が動いているということは、まだコアは生きているのだ。

「ギュウィイィィッ!!」

口が斬られているのに、どこから声をだしているのか。
魔族に常識を求めてはいけないと思ってしまう。

(しかたない、片方ずつ斬っていくか。)

斬られて感覚が鈍ったのか、魔族の動きが鈍っている。
さらに、片方の身体しか動いていないことから、そちらにコアがあることもわかる。

「やあぁぁぁぁっ!」

動く敵半分に向かって剣を横に振り、その半分の首を斬り落とす。
そして落下する首に剣を突き刺した。
これで炎弾は使えない…と思った。
しかし、辺りに何故かチャージ音が響き、反射的に俺は敵から離れた。

「?!」

動いている身体の方は、炎弾の姿が見えない。
ならば一体どこから…。
そのとき、俺の身体が前に飛んだ。

「ッ!」

激痛が背中にはしり、身体は重力の思うがままに落下した。
フラフラと起き上がり、攻撃された方を見ると、動いていなかったはずの敵半分の身体が二度目のチャージ音を響かせている。

「なん…だよっ!」

背中が焼かれたようで、ヒリヒリと痛む。
それでも生きていられるのは、異能力のおかげなのだろう。

「本物のコアはそっちにあるのかよ!」

魔族が、炎弾を発射させた。
その弾を横に転がりながら回避し、異能力を唱える。

「『ダークホール』!」

敵の身体が、焔に覆われた身体が、俺の極小のブラックホールの中へ閉じ込められていく。

「ギュウィィィィィィッ!」

魔族は苦しそうに絶叫した。
やがて、炎の魔族はブラックホールの中へと姿を消す。

「…ハァ…ハァ…!」

俺はごろんとその場に力なくころがる。
そのまま腕を伸ばして異能力を解き、辺りを明るく戻す。
その明るさが、眩しくて目が痛い。
勝ったのだ。
命がけのバトルに。

「…由羅はっ?!」

重たい身体を起こし、ふらつきながら由羅の姿を探す。

「由羅!おい由羅!どこにいるんだ!」

燃えて黒くなったショッピングモールの中へと入ろうとした。
しかし、冷めていない瓦礫などは触れれるようなものではなかった。

「……。」

唖然とその場に立つ。
由羅は、もう死んでいるのだと思った。
黒く熱くなったこの瓦礫の下に、由羅がいて生きているのか。
その可能性は極めて低いと気づく。
俺の膝にはもう力が入らなくなり、ガクンッと落下した。

「…由羅ぁ!」

俺には、そうやって叫ぶことしかできなかった。
まあでも何だろうか。
いつも俺を馬鹿にするアイツ。
いつも俺を変態だと呼ぶアイツ。
幼なじみで小さい頃からずっと一緒にいた……。

「あ…れ…。おかしいな…。何で…。」

俺の目から、雫が落ちていた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

泣き叫ぶことしかできない俺は、なんて無力なんだ。
自分で自分のことを恨みたい。
異能力をもっていたとしても、結局俺は人間なんだと認識する。

「…由羅ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

俺の声が、こだましていた。
そのときだった。

「…ねぇ、何してるの。馬鹿なの?」

後ろから、声が聞こえてきた。
嘘だ、有り得ない。
だってこの声は…。

「…由羅…?」
「はい、由羅ですけども?」

振り向くと、そこにいたのは呆れ顔で立っている由羅の姿。

「…何で…、ショッピングモールの中にいたんじゃ…。」
「…やっぱり和也はバカね。私が和也から離れてすぐに爆発が起きたでしょ。そんなすぐにあたしは移動なんてできないよ。」

そういえばそうだった。
俺はどうも人の感覚が鈍っているらしい。
でもそれよりも。

「…無事で良かった…。」
「…もう、馬鹿ねぇ。でも…心配してくれて、ありがと。」

由羅が照れくさそうにニコッと笑った。
俺にはその顔が、いつもより可愛く見えて。

「…お前、いつもそうなら可愛いのに。」
「さっきの言葉は訂正ね、この変態馬鹿野郎!」

どうも俺は、物語を良い形で終えられないらしかった。



















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