世界と世界の境界線上で
異能力者

幼なじみの雑用係

キーンコーンカーンコーン…

授業の終わりを告げるチャイムが学校内に鳴り響く。

「やっと終わったな…。」

はぁ、と俺はため息をついた。
長かった、金曜日の授業は終わったのだ。
学校が嫌いな16歳には幸せの時間だ。
けれど、俺にはこの後行かなければならない所がある。
それは……。


「うーん、やっぱいい筋肉してるな~。さすが陸上部だ。」

学校の屋上で、俺は女子陸上部の姿をガン見していた。
それも着替え中の、だ。
ここからだとよほど視力のいい人ではないと、彼女たちの白い肌は見れなかっただろう。

「あー、本当にここはいい場所だな…。授業終わって走らないと見れないケド。」

片手に持っていた熱いコーヒーを飲みながら、フェンスによしかかる。
…後ろに、人がいるとは気づかずに。

「…ねぇ、何してるの。」
「おっと、邪魔はしないでくれ。俺は今陸上部の……」

そこで俺は固まった。
この声は、小さい頃からずっと聴いている。間違えるはずもない。
ゆっくりと振り向くと、そこにいたのは俺の幼なじみ、先崎由羅がいた。

「…ねぇ、俺は陸上部の…何?」

その低い声に、俺は視線を逸らさざるをえなかった。
さすが幼なじみ、俺が何をしていたか分かっているのだろう。

「何をしていたのかな、中本和也君?」

低い声で笑顔って何コレ、超怖い。

「えーっと…。無防備な陸上部達のために、俺が監視をしていてあげました…。」
「あらそう。ありがとう、監視をしていてくれて。それを女子達に広めてあげるね。」

俺は流れるように土下座をした。

「どうして土下座をするの?和也の頑張りを女子達に広めてあげるのに。きっとモテるよ?」
「いえ、きっとモテるのではなく罵りがやってくるので止めてください。」
「いいじゃないの。和也、好きでしょ?女子からの罵り。」
「俺はそんな変態じゃない!」

由羅は面白そうにクスクス笑って、屋上のベンチに座った。

「じゃあ、広めないから条件をだしてもいいよね?」

俺は由羅の隣に座り、コーヒーを飲んだ。
彼女の短い髪が、風向きの影響で頬にあたる。

「…変態。」
「ゴフォッ!」

由羅の一言で俺は熱いコーヒーを気管支にいれてしまった。

「ゴホッ…ゴホッ…!一体何だよ急に!」
「女子陸上部の生着替えを堪能した和也に、この称号をあげようと思って。」
「いらねえよっ!あと、いつまでも引っ張るんじゃねえ!」
「見られた女子達から、この称号をもらえること間違いなしよ。」
「本当にすみませんってば!もういいだろっ!」

本当に、コイツは怖い。

「で、何だよ。条件って。」
「あぁ、そうだったね。明日、空いてる?」
「ゴフォッ!」

急に言われて、俺は二度目のコーヒーを気管支にいれた。

「…何で今の咳き込むわけ?」

むせてしまうに決まってる。
だって、コイツから誘いだと?
今まで、変態だのどーのこーの言ってきたコイツから?

「いや、空いてるには空いてるけど…。何で急に?」
「じゃあ、明日8時に駅前の公園に来て。」
「いや、だから何で急に?」
「何でもいいでしょ。いい?明日8時だからね。」
「はあ。」
「バイバイ。」

そう言って去っていく由羅の後ろ姿を、俺は静かに見送る。

「…何企んでるんだ由羅の奴。怖いんだが。」


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