二人の距離~やさしい愛にふれて~
「もう行けない…汚いから。死ねば良かったのに…首しめられて苦しかったけど死ねるって嬉しかったのに…」

理花は草野の質問に答えながら徐々に興奮状態になり、肩で呼吸するほど息苦しくなった。

「そっか、思い出すと息苦しくなったね…この猫をよ~く見て、ゆっくり深呼吸してみようか?」

草野は人形を握った理花の手を目の前に持って行き、隣でゆっくり深呼吸をする。
理花は猫の人形を眺めながら恭吾の顔を思い出していた。
もう会うこともないのかと思うと理花の目から涙がこぼれた。

「恭ちゃんは理花さんのこと汚いって離れたがってるのかな?」

「・・・・・・・・」

その日はもう草野の質問に答えることはなかったが、無気力な理花の中で恭吾の存在は大きくなり猫を眺めて笑いかける時間が増えた。

それからの数日は草野に対しても全くと言っていいほど口を開かなかった。それでも草野は雨の日以外は理花を中庭に連れ出した。

理花が中庭のベンチに座り手元の猫を眺めていると久しぶりに陽斗がお見舞いに来た。

「気分はどう?その猫随分お気に入りみたいやな。こっそり持ってきて正解やったな。」

「・・・・・・・・」

理花はチラリと陽斗を見るも直ぐに視線を手元の猫に戻した。
相変わらず返事が無いことに胸が痛むが理花の表情が以前とは変わってきたことに気づいた。
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