冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
だが、広海さんと、その隣に座る湊征君は揃って顔を見合わせる。返答は否であるようだ。

『ありがたい、が……吸収合併後、櫻衣商事が無くなる可能性はゼロではない。それならば、今はまだ再建計画の可能性に賭けたいんだ』

再建計画とは、湊征君が海外で立ち上げた高級アパレルブランドの逆輸入。だがしかし、そんなに甘い話ではないだろう。

俺から見て、櫻衣商事はもって四年だ。
その間、世界が大きく変化するようなテロやウイルス蔓延といった社会問題、そして経済恐慌が起きぬとも限らない。

経営権を息子に引き継がせたい親心は十分わかる。
だが、引き継がせる前に一切立ち行かなくなり、手も足も出せず経営破綻の危機に陥るなんて可能性もゼロではない。

従来の方針が通用しない時代は、必ず来てしまう。……そうなる前に、恩返しをさせてほしい。

鶴山さんの愛する櫻衣家を、路頭に迷わせるわけにはいかない。
あなた達の、余力を見誤ってもらっては困るのだ。

『では、櫻衣商事の経営陣を据え置きにすると約束しましょう。その対価として――』
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