冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
しかし、宗鷹さんが気持ちを完全に自覚してから一年後。
祖父が突然の病に倒れ入院したと聞いてお見舞いに駆けつけた際、祖父の口から櫻衣商事買収と私との縁談話が持ち上がった。
その時、宗鷹さんは縁談がなくとも買収はすると一度縁談を断ったという。

私はその時の話を聞いて、病床の祖父が死期を悟り、信頼する宗鷹さんに会社や孫娘を託そうとしていたのだと感じた。

……だからお祖父さまは、こんなに不思議な遺産相続をしたのね。

どうにかして宗鷹さんと私、そして櫻衣家の〝縁〟を繋ぎたくて……話がまとまれば彼がすぐに筆頭株主になれるだけの株を、私にわざと与えた。
だから私への遺言が【幸せになりなさい】だったのだ。

そして湊征の方も。
きっと祖父なら宗鷹さんの家を知った上で、隣の物件を購入したに違いない。
つまり、いつかのクリスマスで仲良くなれなかった〝兄〟と〝弟〟に、【仲良くしなさい】と〝縁〟を贈りたかったのだろう。

散りばめられていた暗号が、するすると解けていく。

目を閉じると、好々爺とした祖父の大好きな微笑みが瞼の裏に浮かぶ。
祖父は……宗鷹さんを含めた家族みんなの幸せを、とにかく願ってくれていたのだ。
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