返シテクダサイ《都市伝説》

歪な世界へ





中はさすが廃墟というべきか、数十年前に捨てられた病院というべきか、あれに荒れていた。


物音一つ立たない寒気がするほどの静寂に、俺たちは暫く無言で懐中電灯を辺りに当て込んで、病院内の仕組みを理解していった。


灰色というよりは廃色のコンクリートの壁にはいくつもの亀裂が走り、無機質さを不安定さに変えている。


電灯には蜘蛛の巣が張っていて、至るところに大量の埃と、砂。そして、ガラス片や菓子袋が無造作に鎮座していた。


この病院が木造だったなら、間違いなく床は歩くたびに踏み抜かれていることだろう。
裏口はとくに閑散としていて、薄気味悪かった。



「うわ、気味悪いな」



「廃墟が清潔感保たれてたら廃墟じゃねぇだろ」



「お邪魔しまーす」



晴彦の言葉とともに、一歩ずつ病院内に進入しながら、俺たちは辺りを探る。



「散らかってんなぁ」



ジジ、とカメラのレンズが動いた音が微かにする。


晴彦が病院内をカメラに収めているのだろう、俺は彼の背後から赤外線で見える懐中電灯では照らしきれなかった院内を眺めた。



「まぁ、廃墟になって数十年だしね」



「これからどうするんだ?一階から見て回るか?」



「そうだな…でも一階って受付とか調理室しかないだろ?やっぱここは病室とか見るべきじゃね?」



「じゃあ二階かな?羽山リーダーお願いします」



この振りにも慣れてきたのか、羽山は胸を張って懐中電灯で辺りを照らしながら階段を見つけると一歩一歩上っていった。


その後ろを晴彦、俺が続く。


砂を踏む乾いた音が続いて、すぐ。



「うわあっ!!」



羽山が叫び声を上げて、一瞬身体を仰け反らせ、咄嗟に誇りまみれの手すりに掴まって転げ落ちることは防いだ。


突然の叫び声に俺も晴彦もビクッと身体を震わせ、どうしたのかと目の前で奇妙な形のまま止まった羽山に声をかける。




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