ビッチは夜を蹴り飛ばす。
 

「こら! 逃げるのかどこいくの!」

「急ぎの郵便出しに行く」
「あたしもいくからついでにマーケット行こうよ!!」
「いまもう閉まってる。空いてるコンビニみたいなとこで似たようなん買ってくるから」
「………同じメーカーのがいい…この前違うの飲んだらまずかった」

「お前マジいい加減にしろよ」


 冷静なトーンで言われるけど目がガチすぎてひくっと喉がなる。へい、了解しやしたと軽く敬礼したら軽くため息をつかれてぽんと頭に手を乗っけられてわしゃわしゃと撫でられた。


「すぐ戻るけど鍵はかけといて。もう夜遅いから絶対変なこと考えないこと」

「………硯くんだけ行くのずるい」
「一緒に行ってなんかあったら困るでしょ」

 10分くらいで戻るから、と硯くんが言うからはーいと後ろ手を組んで言ったらいいこ、って褒められた。ふふんとその褒め言葉を堪能しパタン、と扉が閉まって30秒、あたしは一目散に着替えて上着を羽織って財布を持つ。





 硯くんはああ言ってたけどちょっと行くくらい正直なんてことないはずだ。実際あたしらがいる家の周りは市街地よりは外れてるけど街灯が多くて明るいし、この家を決めた時も大家のマリーおばさんがこの辺りは平和よっていかにも危険を知らない感じで言ってたし。

 あたし知ってんだ、硯くんが向かった郵便ポストの近くには美味しくないココナッツジュースしかないけどマーケット側のはす向かいにあるコンビニなら確か前にあたしが好きなココナッツジュースが置いていた。

 ちょっと行って帰ってくるだけ、大丈夫大丈夫と速攻でマンションの螺旋階段を駆け下りてつっかけサンダルでぱたぱたと外に出る。

 で、まぁこれが浅はかだったのだ。












「help! I want you to guide me!」

「ん、う…!?」

 ほんと外に出て30秒くらいだった。徒歩5分のコンビニに向かう途中で飛び出してきた男の人に声をかけられて訳がわからなくて混乱する。ブロンドの髪をした碧い瞳のお兄さんで、抱きつくように畳み掛けられてえ、えっと、って声が漏れる。

 英語の成績2のあたしが英語わかるわけないじゃんと思いつつやがてその人も察したようにstation、と繰り返した。すてーしょん…このひと駅に行きたいのか!


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