ビッチは夜を蹴り飛ばす。
 

 こんな時怖かったな大丈夫かそれよりあいつが触れたとこおれが上から塗り替えてやるよ(イケボ)みたいなこと言わずに自業自得って涼しい顔で相手してくれないのが硯くんだわかってる。

 でもどうしようもなく怖かったし、硯くんいなくてもちょっとくらいなら大丈夫って思ってたし、いやその油断が浅はかだったんだけどと思うけど壊れたみたいに涙が溢れてそれが治んないからだめだ絶対めんどくさいって思われてる。

 ふ、ぐ、ってなんとか涙を押しとどめて風呂入んな、とお母さん硯くんにバスルームに誘導されて、でもまだ怖いから嫌がって硯くんにしがみつく。
 剥がされそうになるけどやだやだって顔をぶんぶんしたら上からため息が降ってくる。


「…なんなの? もういないって」

「ふぐううう」
「ふぐうううじゃねんだわ」

 離れろ、と煙たがられて食い下がる。硯くんの絶対高そうなサテンシャツのお腹んとこくしゃくしゃに持ってよだれやら鼻水やら多分絶対ついてんだろなと思うけどしぶとくそうしてたから珍しくはー、って硯くんが折れてくれた。

「…わかった、じゃあ一緒に風呂入ろ」

「えっ」
「そーしたかったんでしょ?」

 変態、と前髪をかきあげながらめちゃくちゃ罵られてるのにキラキラした目でうんって頷いたあたしは知ってたけどただの馬鹿だ。ただの馬鹿だったから言葉の意味を深く考えることもしなくって、









「ぜっっったいおっかし———よこれ!!!!!!」


 現在に至る。

 お互い揃ってバスルームに入ってえへへとか照れてたらめいだけユニット入んなと言われてからのこれだ。しかも服着たまんまブシャアアアアアアとカラン「強」で水をぶっかけられて水圧で体飛んでいきそうなんだけど!?!

「なんであたしだけ!! なんであたしだけ!! しかも何故服着たまんま!!」
「一緒に洗った方がはやい」
「硯くんが脱ぐと思ったからあたしは」
「おれの裸がそう易々と拝めると思うなよ」

「なんでよおおおおおおおおおお」


 言いつけ破ったお仕置きだ、と冷たく言われ故意に鼻の穴に水入れられてけほっ、こはっと本気で咽せる。しっかり溺れそうになって苦しんだらやっとシャワーを止められてぐすっ、って泣き出したらすんごい悪そうな目で笑われた。硯くん。こりゃあドメスティックバイオレンスやで。


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