ビッチは夜を蹴り飛ばす。
 

 確かに綺麗な顔してんなぁとは初めて見た時思ったけど、それ以上のインパクトがデカかったから正直見た目なんてものは二の次だ。いつだって中身や言葉を重視してきたから今更その価値に気がついてるくらいだってのに、それを補うのはいつだってあたしの役目だって思ってた。


「…硯くんって、自己犠牲的なんだよ」

「ジコギセイ?」

「別に自分なんてどうでもいいって思ってる、だからめちゃくちゃな喧嘩もするし痛いって思ってんのかどうかも正直もうわかんない。だからあたしが付いてないとだめなの、それにあたしも硯くんがいないとだめなの」


 あたしたち唯一無二なんだよう、と丸椅子の上で膝を抱えて蹲ったらカラン、と店の扉のベルが鳴った。


「Oh, it ’s terrible.(あら、酷い有様ね)」


 突如店の敷居を跨いだこれまた抜群のプロポーションに毛先にかけて巻いた金髪を前に流したお姉さん。ミレーナとはまた違う細身の風貌とその真っ赤な唇のほくろが色っぺーけど今度はだれ、って死んだ目で顔を上げたら、あたしを見てその人が奇声を上げて頬を挟み込んで潰しにきた。


「Hmm! What this kid! It's ugly! wack! It's so cute!
 (やーん! 何この子! おぼこい! ださい! ダサ可愛い!)」

「なんかよくわからんけどディスられてることだけはわかるうぶ」

「Rebecca!? What did you come to do!
 (レベッカ?!あんた何しに来たのよ)」

 ジュリアンだれこれ、とほっぺたこねくり回されながら訊ねたら元従業員兼情報屋、と返ってきた。彼女はあたしをもみくちゃにしてくすりと微笑む。

「Hi Julian, it's not watery not to say hello to me even though I came to Amanda's shop.
 (やあねージュリアン、アマンダの店に来たくせにアタシに挨拶ないなんて水臭いじゃない)」

「Shut up, thief cat! You gave it to a customer in the store and banned it as a result, because I haven't apologized yet.
 (お黙りなさい泥棒猫! あんたが店の客に手ぇ出して結果出禁にしたのあたしまだ謝罪されてないからね!)」

「I wonder if it's okay Julian I got such a humor, and I brought a good story with Amanda's kindness.
 (あらいいのかしらジュリアンそんな口利いちゃって、せっかくアマンダの厚意でいいネタ持ってきてあげたのに)」


 金髪美女と謎のやりとりを繰り広げて固まるジュリアンになんのこっちゃわからない。だからこそねた? みたいなことを言って勝気に笑う彼女を訝しむジュリアンに、英語の理解が出来ないあたしを考慮したみたく彼女は「ミレーナニマツワルネ」と片言で口にした。


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