ビッチは夜を蹴り飛ばす。
Day.5
「硯くん映画みよ」
自分の部屋からてけてけて、と走ってきてソファに座っていた硯くんの足の間に座ったらえ、と低い声が降ってきた。
「………鳴しか見えないんだけど」
「やだもう硯くんったら!!」
「硯くんったらじゃなくてね」
邪魔なんよと言われえーとごねる。なんでじゃん硯くん。愛しい人が目の前にいると言うのに何が気に食わないと言うのかね? と教授口調で言ったら普通に冷たい目で見下ろされた。違うんですすいません。
「トニーがね、映画のDVD貸してくれたの!」
「…トニー?」
「うん学校で知り合った」
16で日本の高校を中退したあたしの学歴は実質中卒になってしまう。学歴重視の海外で移住ビザを獲得するべく本来であれば日本で大検取った方がいいんだけど、そこで硯くんが前に勧めてくれた語学学校に最近は時々お邪魔して日本大好きな外国人とちょっとお喋りしたりするのだ。
アメリカに限らずカナダとかオーストラリアとか色んな所から来てる人もいて、トニーはそこで知り合ったはじめてのお友達。
「茶髪でね、ユニークでね、日本大好きだから日本語ペラペラなんだよ! だから唯一喋れた」
唯一無二、と言ったらふうんと言われた。で、どいてくれる? って静かに言われていやーって笑ったら脇の下に手を入れられて軽々と退けられる。
「トニーと観れば?」
「えっ」
どどどどうしたのとゆったり動き出してリモコンを持ちながら所定の位置に戻す所作を見届けて追いかけたら、でもあくまで普通でえ、え、とおろおろする。
「あたし硯くんと観たいんだよ!?」
「おれは今日忙しい」
「オフって言ってた!」
「用事できた」
「いつ!」
「今」
「ん!?」