ビッチは夜を蹴り飛ばす。

 

「…」

「わ、わかった、」


 真っ直ぐ見られて、やだなんだ、そっか。我慢する、って胸に穴が空いたような絶望に駆られながら涙目で背を向けたら、後ろから嘘だよばか、って声がした。振り向いて疑わしげな目を向けてしまうあたしに、硯くんがポケットから手を出す。


「おいで(めい)















(…おいでって言われた)


 きゅんきゅんしながらその手を取って、ちゃんと硯くんの部屋に入った。

 前にその、した時ぶりだったからまたなんとも言えない気持ちになりつつ後から入ってきた硯くんの扉を閉める音にぴく、と体が跳ねる。


「ベッド、奥と手前どっちがいい?」

「い、一緒に寝るの!?」
「地べたで寝たいなら別でもいいけど」
「一緒に寝るっ」


 断じて、って赤い目で睨んだらうん、て軽く鼻で笑われた。鼻で笑わないでよ。こっちは必死だっていうのに。で、どっち、って訊かれるから、ベッドと硯くんを交互に見る。


「ど、…っちでもいいよ」

「じゃあおれ窓際行くわ」


 さりげにこれは雷の音遮る側に行ってくれたのかな、と思いつつこの瞬間もぴしゃん、と鳴る雷にひえぇって声が出る。ほんと嫌いなの雷。悪意しかないし。思い出すことばかりで。

 おんぼろアパートの、お母さんが帰ってこない部屋で一人。大雨で、ところどころ雨漏りしてて。食パンの空袋に残ったパンくずの少しを食べて、また音から逃れるべく押入れに潜ってずっと一人で震えてた子ども時代。

 ちょっと軽いトラウマだし、ってもう声を殺してベッドに寝転んで泣いていたら、めい、ってやらかく呼ばれた。

「寝るときひそひそ話する?」

「ひそひそ話?」
「ひそひそ話」

 紺色のサテン生地の上下セットパジャマに、紺色の部屋。あたしの部屋はいろんな色で溢れてるけど、基本的に硯くんの部屋はよく見ると落ち着いている。黒、白、紺。あとものがすごくシンプルにまとまってる。
 頭ん中クリアなんだな、と思ってたら奥側から硯くんがベッドに乗って、ぎし、って音を立てた。

 枕を持って背を向けていたあたしの肩を指でとん、とされるから、向かい合う。あたしたち今、一緒に寝てるんだな、って思う。


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