ビッチは夜を蹴り飛ばす。
Day.6
万年晴れの日しかないと思っていたハワイにも実は雨季はあるとかでその日あたしは海外に来てはじめての大雨と雷に遭遇した。ハリケーンだかトロピカルストームだかなんだかっていうそれのせいで昼間からずっと雨がざざ降りで、さっき雨戸を閉めようとしたら光った瞬間思いっきり雷鳴した。
嵐が来て喜ぶのなんて子どもかごく一部のちょっと変わった大人だけだ。
雷が響くたびチカッ、て光る電気が怖いからクッションを抱いてベッドで震えていたけれど、あたしはもうだめみたいだ。
部屋の外で物音がしたのを合図に、あたしは部屋から飛び出した。キッチンの方へ横切ったパジャマ姿の硯くんを横目に見て、トイレに駆け込んでからすぐさま用を済ませてキッチンの方へ向かう。
「す、すっごい雷だね」
「うん、なんか台風来てるらしい。停電なるかもなこれ」
「て、停電? やだー」
水飲む? って訊かれてこくこくと小刻みに頷いた。
あくまで自然体を装いつつ視線はちらほらと四方に散っていて、冷蔵庫から水のペットボトルを渡されるとぺき、とキャップを開けて一口二口、口にする。別に喉が渇いてた訳じゃなかったからそんなに進まなくて、そんでちょっと溢れた。
慌てて手の平と甲で拭っていたら硯くんがリビングの電気を消すから、あたしも慌てて自分の部屋へと向かう。戻るわけではなく、取りに行った。枕をだ。光って、すぐまた耳を劈《つんざ》く雷鳴にびくってして、でも悟られないようにキッチンの電気を消した硯くんと廊下ですれ違う。
「なに? もうあっち電気消したけど」
こくこく、って頷く。雷に限って、あたしは鳴ってるとき声を殺すようにしてる。話してて鳴られたとき叫んじゃうのを防ぐためだ。
そのままあたしの横をすり抜けた硯くんは気付いていそうなのに、なにも言ってくれない。おやすみ、って言われたから間違いない。
このままでは、そのまま中に入って、しまう。ので。
「すすすすずりくんっ」
「?」
「い、一緒に寝てもいい?」
枕を抱き締めて、もう怖くて堪らなかったから今この瞬間もぴしゃん、と鳴る雷にびくってしながら涙声で訊ねたら、ドアノブに手を引っ掛けていた硯くんの左手が、ゆったりとノブから外れた。ちなみに右手はポケット。振り向いて、顔がやんわり傾く。そんで。
「やだ」
「!」