ビッチは夜を蹴り飛ばす。
「やだ、」
「やだやだばっかだな」
「だってごはんとかどうすんの! 硯くんいないとあたしウーバーイーツ生活になるよ!」
「一週間保つ程度の食材あるんだからちったあ自炊しろ」
「包丁持ったことないの!」
「マジで言ってる?」
花嫁修行した方がいいよといわれるけど別に嫁に行く予定ないっていうか硯くんが貰ってくれんじゃないのと尋ねたらなんか普通に無視された。
なんで、とむくれてばたばた足で床を蹴る。
「それでいっぱい食べて一週間のうちにめちゃくちゃ肥えたら硯くんのせいだから!」
「それはおれのせいじゃない」
「元を辿れば硯くんに辿り着く! そんでお姫様抱っことかするとき腰壊しちゃえばいいんだあ」
うわあああん、と我ながら逆の立場ならうざくてうざくて堪らない駄々のこね方をしてるのは承知の上だったけど、でも嫌なもんは嫌だもん、と引き剥がされた体を起こしてとたた、って走ってやっぱり腰に抱き着いたらぐえ、と棒読みが降ってくる。
「めい、苦しい」
「あたしも行きたい!」
「家も引き払ってるから一週間店長のとこにお世話になる話になってんの。二人で押し掛けたら迷惑だろ」
「ホテル取ればいいじゃん!」
「そんなんで使ってたらすぐ破産する」
硯くんのけち、倹約家(褒めてる)! って叫んだら聞き分けの悪い子は嫌いだよって言われた。
渋々手を離してその背中が玄関に向かうとでもやっぱりだめで、遠慮がちに硯くんのお腹の方に手を回す。
「硯くんいかないで」
いっちゃやだ、って本当に寂しくなって涙声で伝えたら、はー、って長いため息の後に腕を掴まれて離された。呆れられたかな、って見上げたところで、振り向いた硯くんにそっと唇を奪われる。