ビッチは夜を蹴り飛ばす。
Day.9
海外に来てから、好きなものを好き放題、好きな時に好きなように食べてる自覚はあった。
でもなんの気無しに脱衣所で洗顔後毎日見てる鏡の自分がそんな変化なかったからまー大丈夫でしょってその程度。
物事を先送り先送りにしてきたツケが、その日あたしにこんな形で降りかかってくるなんて。
「…………やばい」
脱衣所の体重計から降りて、深呼吸をして、も一度そっと右足から乗ってみる。でもやっぱり同じ数値どころか1回目より2グラム増えた数値を叩き出してぎぇえ!! と咆哮した。
「鳴、ご飯」
出来たよ、ってコンコンと部屋をノックする音がして、あたしはそろりと自分の部屋の椅子から立ち上がる。入り口に立ってた硯くんの腕アーケードを潜って美味しそうなお手製料理を見てからすとん、と椅子をひいて座る。
「箸」
ん、っていつも通り向かいから渡されて無言でそれを受け取って、硯くんが座るのを待ってから二人で手を合わせる。
「いただきます」
「どうぞ」
「ごちそうさま」
「え?」
一口二口食べてすぐさまお箸を置いたあたしはそのまま椅子から立ち上がる。少しだけ汚れたお箸とお皿だけキッチンに持って行ってざー、と水で洗い流したら、椅子に座ったまま振り向いた硯くんがぱちぱちと瞬きした。
「え、まずかった?」
「めちゃくちゃ美味しい」
「全然食べてないじゃん、具合悪いの」
「…ううん」
そろ、と視線を外して言葉を濁せば、大体の人はその辺で関心が逸れて自分の晩ご飯にありつくと思う。
でも硯くんってそうじゃない。あたしの異変に聡いばかりか、そこに裏があると知ったら勘繰るように静かに目で返事を待っていて、一切その視線が途切れなかったから読んで字の如くわあっと手を挙げた。
「………えちゃったの」
「え?」