ビッチは夜を蹴り飛ばす。
03.ご利用は計画的におなしゃす
「ほあ〜! お兄さんえげつな! イケメン! お肌ツルツル〜ねえなんの化粧品使ってんの?」
「使ってないすね」
「ぜぇったいうそー! てかカラコン入れてる? 目ぇ青い! 眼鏡おしゃ! めちゃ似合う〜◎」
「おい何店員に絡んでんだ酔っ払いはよ行くぞ!」
「うぇ〜?? お兄さんばいばいき〜ん」
無表情のままばいばい、って指先だけ遊ばせた挨拶にキャーッと酔い潰れた女性が奇声をあげて彼氏と思しき介抱者にずるずると連れられていく。
流し目で確認した時計の針の深夜3時、無人の店内に視線を滑らすとバックヤードの段ボールがバタバタと倒れる音がした。顔だけ向けるとこっちに苦笑いをくれながら床を這って出た小太りの彼は、このコンビニの店長だ。
「やー硯くんお疲れお疲れ! あれ、今日あの子いないんだ」
「あの子とは」
「はぐらかさないでよ深夜2時の逢引き常習犯」
「ああ。轟木 鳴のことならそんな関係じゃないですしあれが来るのはランダムです」
店長知ってたんですね、と聞けば「きみの動画編集が日に日に雑になってるから」と言われ少しだけ舌を出す。せめてご機嫌とりで暑くもないのに額に汗を浮かべている店長をねぎらって冷房のリモコンを下げようとしたらその体がびくっと跳ねた。
続けて胸ポケットから引っこ抜いたスマホを見てはひぃっと悲鳴をあげる。
「うわ、まただよ悪戯電話!」
「悪戯電話?」
「そうそう、昨晩からずっとだよ、知らない番号から電話かかってきててさあ! 怖いから無視してるんだけどちょっと見てよ硯くん」
「…それってもしかして番号090-XXXX-XXXXじゃありません」
「え、なんで知ってんの?」