ビッチは夜を蹴り飛ばす。

Day.15




 日本を飛び出して海外進出を果たしたのは全部全部(すずり)くん(とコンビニ店長)のおかげだし、住居も学校も今の生活の段取りを組んでくれてるのは硯くんだから頭が上がらないのはわかってるけど、でも一緒に暮らすってなったときはじめに決めたルールがある。

 最近そのルールが緩んでる。あたしが破ったらめちゃくちゃお母さんのように叱りつけてくるくせに自分が破ってもなあなあで誤魔化そうとするもんだから、硯くんにはそろそろ本気の喝を入れた方がいいと思う。













 語学番組のTV画面を見ながら時計を見て、画面を見てからもう一度時計を見る。

 15分前に気付いてからずっとこの繰り返しで正直語学番組の内容は全然頭に入ってない。三角座りをしてへの字口にして指でとんとんしながらTV画面を睨んでたら、程なくしてぱたん、と玄関の戸が開く音がしてあたしは痺れを切らしたように立ち上がった。

「ただいま」

 今日なんかすげえ人多かった、って出先から帰宅した硯くんを玄関で仁王立ちでお出迎えする。そのまま腕を組んであたしが真顔でいたからか、え、通して、って言われて頑なにかぶりを振った。

「硯くん」

「はい」
「約束の時間守れないのは社会人としてどうかと思います」
「…はい」
「はじめ、出掛けたら帰宅するのに18時には帰ってくるって約束した」

(めい)はな」

「ちがあう!!」

 すいと通り抜けようとする硯くんに待ったをかけて通せんぼする。

「硯くんもじゃん!」
「おれは21時までに帰宅したらいいって決めた」
「いつ!」
「今」
「うおい!!」

 どっかの芸人みたいなツッコミになってしまっていやいやいや、と腰にしがみついてずるずるリビングまで連行される。だめだ。これじゃいつもとおんなじ流れだから今日に限っては潔く自分から離れてリビングのカーペットまで歩いていく。

 そしてずびしと自分の立つ場所の前を指さした。

 

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