ビッチは夜を蹴り飛ばす。
 

 直後だった。どごっ、と鈍い音がしてあたしの首をひっ捕らえていた男の力が緩んだ拍子にすかさず下からすり抜けて、脱兎の如く逃げ出した。


 それを繰り出したのは硯くんで寝ぼけ眼で繰り出したラリアットのおかげだったんだけど、駆け寄ったらふらぁ、って硯くんが目を閉じたままぐらり揺れる。それもうある種の睡拳(すいけん)じゃん。


 それでも完成度の高い護身術が功を奏して相手の動きを封じた時は仲間達を脅すのには十分すぎるそれだったし、事実一瞥をくれるなりちょっと引き気味に行こうぜ、って同級生達が速やかに店を出てったから、その時ばかりは店員さんの「ありがとうございましたー」が深夜の雑なコンビニでのあざっしたーと違いすぎてちょっと笑えたんだ。


「………鳴そういや学校は?」

「今日祝日なのだよ、硯くん」


 気がつかなかったの、っておめかしした私服をひけらかして覗き込んでみたのに、日本語にもならないフニャ語で肯定はしていたんだたぶん、多分ね。














 耳にタコが出来るくらい言うようだけど最近母の相手をする羽振りのいい男はあたしに会うたびお小遣いをくれて、それが毎回諭吉さんであることは輝かしい事態だった。

 お母さんがあんまりあたしに興味がなくて食パンくらいしかあてがってくれないから夜食にコンビニ弁当を買ってること、それ以外はプリンとかアイスで済ますこと、お腹が空かない日はなにも食べないこと、それを例えば少し続けたりしたらあたしって結構大富豪だったりした。


 水族館と遊園地、どっちがいい、って聞いたら硯くんはどうでも良さそうだったし、あたしも彼も水族館を前にしたらお魚を前においしそうを我慢出来そうになかった、ので。


「じゃじゃん遊園地。遊園地どーん!」


 遊園地に、きた。



 きらきら輝く彩り鮮やかなアトラクションに建造物、平日、でも祝日とあってゲートを潜ると家族連れ、カップル、人、人、人人人の群れにわあ、酔いそうってのっけから気弱になりつつ気力でぐん、と硯くんの手を引っ張る。


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